1 このところ新型コロナウィルスの感染拡大を防止するために自粛要請が強化されており、テレビをつければ新型コロナの報道が相次ぎ、陽性確認者数のグラフに一喜一憂する 様子が映し出される。マスコミも、「正確な報道」と「情報の見える化」といいつつ、視聴者の関心に合わせるように、意識すると否とにかかわらず、不安や恐怖を駆り立てる結果となっているのは皮肉である。周知のように、東京都内でも自由に動くことが困難な閉塞状態が続いている。

かくいう私も、勤務先の大学が閉鎖されて、研究室や図書館の利用も制限されている。 いうまでもなく様々な業態で、自粛の影響を受けて、経済的大打撃を受け、とくに中小企業をはじめ、フリーランスや臨時雇用の労働者、アルバイト学生達にも将来への不安が広がっているようである。もっと大変なのは留学生や技能実習生のような安易に切り捨てられる存在であろう。経済的破綻状況は連鎖的に生じて、結果的に、より弱い立場にある者に、より困難な状況を強いているからである(水害等の被災者の方にとっては二重苦・三重苦の状態にある)。また、最前線で病人や要介護者と接している医療・介護関係従事者、 物流を支える人々の御苦労も並大抵のものではあるまい。心からの敬意を表したい。

 

2 人々の安全や生命には代えがたいこととはいえ、市場活動がここまで縮小すると、消費生活そのものの基盤も揺らいでこよう。このような時期に、消費者団体としての NACS がどうあるべきか、ポスト・コロナの時代を見据えて今後の活動の在り方などを改めて考えさせられているのは、私だけではあるまい。人々の生活様式や消費生活のありようそのものが、大きく変化しつつあるからである。

この時期における一般的な注意や心構えについては、大石副会長が、前号の広報で見事なメッセージを書いているので是非読んでいただきたい。私も全く同感で、ここで改めて 繰り返すまでもあるまい。(1)3 密を避け、(2)マスクの使用や、(3)手洗い、買い物などでのソーシャルディスタンスの確保などの徹底といった日常的な注意を尽くすことで、他者に対する配慮に留意することが、医療崩壊等を避けるためにも、少なくとも私たちにできる 最低限の協力活動であろう。ここでは、最近感じたことを、少しだけ述べて、責めを塞ぐことにしたい。

 

3 最初に申し上げたいことは、今回のような感染症問題は、人類の歴史の中では繰り返し発生してきたことで、何も今に始まったことではないという事実である(手近なもので は、石弘之『感染症の歴史』[角川ソフィア文庫]や H マクニール『疫病と世界史(上・下』 [中公文庫]、カミュ『ペスト』などが興味深い)。敢えて言えば、私たちは、新型感染症 を克服し、今後とも「共存」していかねばならない運命にあり、常にこれと向き合って乗 り越えてきたことを思い起こす必要がある。それだけに、できるだけ客観的知識に基づいて、「相手を知って正しく恐れる」姿勢を持たねばなるまい。その意味では、「新型コロ ナ感染拡大防止のため」という言い訳けによって、必要以上に語られる、緊急事態的社会 統制や社会監視の進展には警戒しなければなるまい。それらは、他者に対する無関心や無責任と紙一重である。民主的な社会倫理や人々の他者に対する思いやりを大切にすること が、今こそ重要であろう。「自分は社会のために何ができるか」と問い直して、人間の存在や生き方の基本を見直すことで、各人の生活における自律性が試されている時代のように思われる。今回の自粛騒動は、ゆっくりとものごとを考える絶好の機会かもしれない。 人間の生き方や自然・環境との関係、関わり方などを見直す時間が、たっぷり与えられたことになるからである。

 

4 事業活動もまた大きな転機を迎えている。真の意味で「消費者志向経営」ということの意味を考える良い機会ではあるまいか。効率性や事業利益の最大化のみを目指すのでは なく、消費者目線で、消費者の利益や環境に十分配慮した事業活動こそが、消費者の支持を得て、新しい市場で生き抜くための経営哲学であることに、いち早く気付くべきである。 競争から共生へと舵を切り、消費者との「コミュニケーション的行為」に力を入れるべきであり、NACS のような消費者団体は、そのためのインターフェース(媒体)となることが求められよう。

 

5 他方、心理的抑圧に耐えられない人の中には、比較的弱い人に対する攻撃をしたり(児童虐待や DVD・老人虐待などはその最たるものである)、変に過剰な自意識や正義感を振り回しての他者を攻撃する例(偏見や差別行動、自粛警察となのって嫌がらせをする例も あるらしい)も現れる。自分の心の弱さの裏返しであろう。もっと許せないのは、こうした事態の下での人々の不安や心配・懸念に乗じた詐欺的勧誘行為や犯罪的行為である。何でも金儲けの材料にするしたたかさには驚かされるが、人間的には、唾棄すべき存在といわねばならない。

 

6 この際、前向きに、自分の健康や身体的能力維持のために、食生活を始め、市場での消費行動において、何が本当に自分の生活にとって大切で必要なのことなのかを考えてみてはどうであろう。いまこそ、人々が、不安や恐れに耐える力、環境適応力を伸ばしていくことが重要であるように思われる。NACSの会員の皆さんに、心からのエールを送りたい。