2019年度石油連盟事業報告2

今後の活動に向けての考察

 

近年、地球温暖化の影響で大型台風や豪雨が頻発し、毎年のように各地で水害や土砂災害が発生している。
また近い将来、「南海トラフ巨大地震」や「中央構造線断層」による地震が予見されており、 防災意識は以前に比べるとずいぶん高まっているといえる。
石油に関する備えについても、ここ数年の苦い経験から、台風や豪雨など来襲が予見できるものについては、 テレビなどを通じてガソリンや灯油の補給などがアナウンスされるようになってきた。
しかしながら、日ごろからの家庭・避難所等での灯油のローリングストック、石油ストーブの確保、 地域拠点SSの設置および認知などはまだまだ十分とはいえず、消費者の認識を一層高めていく必要がある。

このような背景のもと、NACSが地方支部とともに2016年度から実施してきた「災害と石油」 をテーマとした意見交換会は、以下の4点の効果が期待されている。

@(NACS会員及び消費者に)災害時における石油の役割や実情を正しく認識してもらう
A(NACS会員及び消費者に)災害を想定して石油関連製品を備えることの重要性を認識してもらう
B(NACS会員及び消費者に)地域における情報(住民拠点SSの位置等)の現状を確認し、  石油に関する情報提供の必要性を認識してもらう
C上記3点について、NACS会員を通じ、広く一般消費者に認識してもらう

ここでは、意見交換会の中で出てきた発言やふりかえりシートの結果などから、4つの観点について評価し、 今後について考察したい。

@災害時における石油の役割や実情を正しく認識してもらえたか?

意見交換内の「石油連盟からの情報提供」では、毎回石油の特性や石油を取り巻く状況、 現在進められている災害対策、防災における石油の備えの働きかけなどについて、最新情報をお示しいただき、 参加者からは好評を得ている。
とりわけ、石油製品の保管方法や品質の確認方法、災害時の業界の対応(実際に起こった災害にどう対応したのか)、 住民拠点SSの設置状況に関しての関心が高く、質疑応答も毎回活発に行われている。
そして得た知識をふまえ、参加者は防災準備段階や発災後の段階において、 どのような情報や行動が必要かについて議論を深めることができている。
以上のことから、意見交換会を通じて参加者は、石油の役割や実情を正しく認識することができていると言えるだろう。

A災害を想定して石油関連製品を備えることの重要性を認識してもらえたか?

石油に関する備えについての意見交換では、日常生活ではあまり意識することのない石油製品に関心を向け、 災害時に石油製品がないと具体的に何が困るのかを認識することができる。
そして議論の結果、移動のためのガソリンは、自家用車ではこまめに補給し一定量を下回らないように 気を付けることの重要性が共有されるとともに、携行缶での備蓄は推奨できないこと、 SS減少の課題などが共有されている。
一方、より命や健康に影響が大きい熱源としては、石油ストーブの有効性や灯油の備蓄の必要性などが共有されるが、 住居の形によって石油ストーブか使えないこと
避難所には保管スペースなどの関係で石油ストーブを置いているところは少ないこと
灯油は長期保管が難しいことなど多くの課題があること
にも気づくことになる。
そして家庭や地域の実情に合った暖を取るための多様な方法や、 地域での備えの在り方についてのアイデアを出し合う事につながっている。
以上のことから、意見交換会を通じて参加者は、石油関連製品を備えることの重要性を認識しているといえるが、 災害時に困らない備えを進めるためには、課題解決に向けた一層の取り組みと情報提供が必要だと言えるだろう。

B地域における情報(住民拠点SSの位置等)の現状を確認し、 石油に関する情報提供の必要性を認識してもらえたか?

@でも触れたが、石油連盟からの情報提供の中で、非常に関心が高まるのが住民拠点SSについてである。
住民拠点SSはどのような機能を持っているのかを知ることで、自分の住んでいる地域にそれがあるのか、 それはどうすればわかるのか、どうすれば増やすことができるのか、などもっと知りたくなる。
そしてその情報が提供されることで、住民拠点SSを増やしていくために自分たちができることについて 思考が広がっていく様子が見て取れる。
ふりかえりシートの「共有したいこと」でも「行政や業界への要望」でも、 住民拠点SSは必ずと言ってよいほど記載されている。
また情報のあり方に関する意見交換では、地域の防災ハンドブックなどに石油に関する情報があまり 掲載されていない現実を確認したうえで、どのような情報がどのような媒体に記載されてほしいかについて 活発な意見交換が行われた。
防災に必要な情報は、自治体のホームページや広報紙、回覧板、防災ガイドブックや防災マップなどへの 記載の希望が示された。
また、災害時の情報伝達では、SNSや様々な地域メディアへの期待が示されると同時に、 避難所の掲示板の活用や口コミの重要性も指摘されている。
以上のことから、意見交換会を通じて参加者は、住民拠点SS及び石油に関する情報共有の重要性を 認識していると言えるだろう。

C@〜Bについて、NACS会員を通じ、広く一般消費者に認識してもらえたか?

NACSでは意見交換会を開催した支部において、ニュースレターに開催報告を掲載している。
今年度は、東日本支部、西日本支部、中国支部のニュースレターに開催報告が掲載された。 ニュースレターの発行部数は合計で2,260部となる。
またふりかえりシートには、大半の参加者が家族や知人、近隣の住民、 職場の同僚などに情報を共有していきたいと回答している。
以上のことから、意見交換会を通じて参加者は、得た情報を多くのNACS会員及び消費者に伝えていく 意思を持ち活動していると言える。

D今後の活動に向けて

以上みてきたように、意見交換会は当初想定していた以上に効果があり、 新たな関心を生み出したと言ってよいと思われる。
しかしながら、ここで生まれた関心や共有された知識(認知)を、次の行動につなげていく必要がある。
防災の取り組みは自助努力だけでなく、地域の防災関係者や自治体、行政などと連携し、 共助・公助を充実させていくことが望ましい。
これは石油の備えに関しても同様であり、そのためには多様な関係者が一堂に会して議論する場が必要となる。
鳥取のふりかえりシートには「行政の危機管理担当者等を交えて、今日のような意見交換会を開催したい」 といった意見も見られた。
この点については、徳島で開催した意見交換会が先駆的な取り組みとなった。ここでは消費者のみならず、 防災の専門家として防災士、行政の防災担当、学識経験者、建設業者など、多様な主体の参加を得、 幅広い視点から情報が提供され、濃度の高い意見交換が行われた。例えば防災士グループからは、 自主防災倉庫に発電機はあるが燃料は3日分しかなく、1週間分確保するための貯蔵庫の必要性が語られた。
行政・専門家グループからは石油製品の携行缶での保管の規制緩和や、劣化を防ぐ技術開発の必要性、 また固形燃料や薪ストーブの復活を検討する必要性などが指摘された。また、災害時の燃料の供給については、 稼働しているSS情報を、自動車メーカーなどが提供している「通れた道マップ」 などと連動させることへの期待も語られた。

以上をふまえると、今後も引き続き地域での意見交換会は必要であり、とりわけ、 防災にかかわる多様な主体の参加を得て行うことは、石油に関する防災意識(認知)を高めるとともに、 災害対応の強化につながるステップとなりえるのではないか。