持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて様々な取り組みが、拡がりつつあります。電車内のビジョン広告など、世界を挙げて全員参加で取り組むという動きを感じる場面も増えました。
“目標”というと、“一年の計は元旦にあり”といった個人の目標はさることながら、“年度目標”“○期目標”など、企業や団体、政府機関などのある一定の組織や個人の単位で策定し、進めるという事例が多く、また、そう認識することが多かったように思います。SDGsでは、目標に関与する範囲を世界レベルに拡大しています。世界中で共通の目標を掲げることにより、活動の方向性を関係者が共有することができ、バラバラの取り組みではなく、体系的に関連性をもった活動につなげ、より効率的に、また将来を見据えた大きな目標の達成ができることが期待されます。

 さて、HACCPシステムは、フードチェーン全体で食品安全を確保するための手法です。食中毒など健康への悪影響を起こす要因(以下、危害要因)には、病原微生物や硬質異物の混入、意図しない大量の化学物質の混入やアレルゲンなどがあります。食中毒統計では、カンピロバクターやノロウイルス、最近ではアニサキスなどの寄生虫による事例が多く挙がっています。これらの危害要因の存在をゼロにすることはできない状況の下で、健康危害が起こってからではなく、事前に手を打つことにより、悪影響を許容可能なまでに抑える、事故を発生させない、あるいは健康への影響の程度や危害の発生率をできるだけ低減するという取り組みです。このHACCPシステムもSDGsで掲げられている目標達成に寄与する活動の1つです。
 HACCPシステムにより、食品の製造加工の現場だけではなく、原料となる農畜水産物の生産現場、原料や出来上がった商品を運ぶ現場においても、危害要因を特定し、適切に管理することにより、安全に食品を提供できます。もちろん、消費者が調理する、食事をする際にも食品を安全に取り扱うこと、食べることが大事です。冷蔵庫で保管する、よく加熱する、手を洗って食べるということです。このような取り組みは、SDGsでは、人々の健康的な生活の確保(目標3)、つくる責任・つかう責任(目標12)、そして、フードチェーン全体で協力するという点では、パートナーシップの活性化(目標17)が該当します。さらに、安全に食品を取り扱うことは、貧困や飢餓を終わらせる(目標1、2)ことにつながります。
 土壌や水に含まれる物質の農畜水産物への安全性の影響についても、危害要因の種類や量を確認し、その環境の整備や農畜水産物の栽培・飼育の管理をします。また、これらを食品原料として用いる場合の人の健康への影響を評価し、悪影響がないように事前に管理手段を決めます。農畜水産物そのものの評価と管理も重要ですが、その評価結果に基づいて、食品としての加工、輸送、保管における管理手段を工夫し、産地での取り組みと連動することにより、土地や天然資源の有効活用につながります。たとえば、生産現場では、除去しきれない土砂や虫も加工段階による選別や洗浄技術により食品への利用が可能になります。原料段階でのロスが削減できます。
 また、自然災害の影響を受け、衛生状態の悪化が懸念される場合にもできるだけ廃棄せずに加工用原料として使用できます。
 これらのことは、SDGsにおける貧困や飢餓をなくす、持続可能なエネルギーへのアクセス、成長・雇用、海洋資源や陸上資源の保護に寄与できます。

 また、我が国における少子高齢化は、生産、加工の現場にも影響が出ており、技術の伝承や若者の育成、産業としての継続が大きな課題です。機械化のように、技術を駆使したハード面での対応も改善方法の1つですが、人の育成は最も大事で、ベテランの方が担当してきた生産や製造の工程に経験が少ない人を配置し、OJTの機会を増やすことも必要です。その際に、経験が充分でないことによる労働災害の発生可能性や食品の安全性に影響を及ぼす可能性を事前に洗い出すことが重要です。教える人には、あらかじめ、管理する項目や方法を検討したり、事故が起こった場合のバックアップの工程を準備することが求められます。工程上、リスクの高いところ(HACCPでは、重要な食品安全ハザードを管理する工程。重要管理点(CCP)、オペレーション前提条件プログラム(OPRP)として管理します)を明確にし、重点的に早期に育成できるように配置を工夫したり、長期的に育成するプログラムを検討することが必要です。また、教育を受ける人には、食品の安全性を確保する上での自らの役割を自覚し、行動することが求められます。それができるような教育が必要です。
 このような活動は、我が国の少子高齢化という課題をかかえる生産現場だけではなく、途上国における労働環境の改善や改革、ジェンダー平等の達成やダイバーシティへの取り組みにもつながります。

 一方で、SDGsの目標は多岐にわたっているため、 “食品ロスの低減はもちろん必要”でも“表示がまちがった商品はお店の棚に並んでいるのは許せない。”、“途上国の生産能力の向上は大事”でも“国によって習慣や法律の規制のレベルが異なるので心配”など、目標、および関連する法律、消費者の納得や安心の点で、これらの両立が難しかったり、相反したりする事項もあります。
 だからこそ、目標に向かって解決するために、同じテーブルで議論できる場所が必要なのだと思います。HACCPシステムをはじめとする、リスクの分析、評価の手法、それ自体も多くの人がかかわり、様々な視点で使う場面、使い方を発展させる必要があるのかもしれません。
 
 そもそもHACCPシステムは、地球と宇宙とをつなぐ宇宙船の飛行を安全に維持するための宇宙食の開発が契機であると言われていますが、現在においては、特殊な空間のみを想定するのではなく、また、科学的な側面だけではなく、社会のニーズにも応える、地球の今と将来をつなぐための技術として使うものだろうと思います。