子どもを事故から守るために子ども服のJISが制定されました
1.子ども服のここが危険!
子ども服に付いているフードや襟首の引きヒモが首を絞めてしまう危険性があることを知っていますか?可愛らしい子ども服に付いている引きヒモや付属品が子どもの怪我や重大な事故に繋がる危険性があります。
例えば、公園や幼稚園の滑り台から滑り落ちた瞬間に首回りに付いているヒモが滑り台の隙間や枠に引っかかり、ヒモが引っ張られて首が絞まってしまいます。また上着やズボンの裾に付いている引きヒモも、物に引っかかったり自分で踏んで転倒したり、また自転車のタイヤに巻き込まれて自転車ごと倒れてしまうことがあります。
2.東京都の取り組み
家庭内でも、フードがドアのノブに引っかかり転倒し首を絞められた、などの事故事例が平成18年に東京都が実施した消費者アンケート調査に寄せられました。そのアンケートによると、全体の77%がひやり・ハットを含め事故を経験しており、そのうち、16.5%(6人に1人)の割合で実際に怪我をしましたが、ほとんどの人(96%)が、どこにも苦情を申し出ていませんでした。東京都はこれらを纏めて平成19年3月 報告書「子ども用衣類の安全確保について」を発表し、子ども服の安全規格の策定を提言しました。
また、東京都をはじめ、国民生活センター・(社)日本公園施設業協会など、多方面からリーフレット等で、子ども服のフードやヒモの危険性について注意喚起が行われていますが、実際にはデータ化され具体的に公表されている事故情報は極めて少ないのが現状です。
3.日本の子ども服販売状況
その後、全日本婦人子供服工業組合連合会が業界団体のガイドラインを策定しましたが、十分に普及しませんでした。現在も子ども服の安全対策は各事業者の自主基準に任せられています。しかし、NACS東日本標準化を考える会が2010年11月に行った事業者アンケートでは、各社の自主基準の内容は様々で、安全対策のレベルはばらばらでした。また、一部の通販・インターネット販売では、フードの引きヒモの先端に飾りが付いている商品などが多数販売されているのを確認しました。
4.海外の規格
アメリカや欧州連合(EU)等ではヒモに関する安全規格が策定されています。また、イギリスでは、ヒモだけでなくファスナーやボタンなども細かく決めています。
先ずアメリカでは、「米国消費者製品安全委員会(CPSC))」が、1985年から約10年間に、子ども用上着の引きヒモの引っかかりが原因の死亡事故が17件、負傷事故が42件起きている事を示し、1996年にガイドラインを公表して、事故原因となる首周りのヒモの禁止や、上着のウエストや裾のヒモの長さを制限しました。首回りのヒモが滑り台に引っかかり窒息死した事例や、上着の裾等のヒモがスクールバスのドアに引っかかり、そのまま引きずられて死亡した事故事例などが把握された為です。このガイドラインを基に1997年米国材料試験協会(ASTM)は引きヒモに関する安全規格を制定しています。
その内容は、
(1)2歳~12歳の(アウターウエア)上着に、フード及びネック部分に引きヒモをつけない
(2)2歳~16歳の(アウターウエア)上着のウエスト及び裾に付いている引きヒモについては、
i. 衣類のヒモが入っている部分を完全に伸ばした状態で、外に出るヒモの長さは75 mm以下
ii. ヒモの端にトグルボタンや結び目などを付けない。トグルボタンとは、木・プラスチック・金属などでできたボタンのような留め具の事です。
iii. ヒモが一方に長く伸びてしまわないように、ヒモと衣類を背中の真ん中で一部縫い付ける。これはバータックと言われています。
その後、子どもの事故は著しく減少したと報告されています。
イギリスでは1976年に英国産業貿易省(DTI)が安全規則を策定し、胸囲44㎝未満の衣類には、ヒモ付きのフードを付ける事を禁止しました。1997年には英国規格協会(BSI)が安全規格を制定し、子ども服の安全性を高める為に、ヒモの他にフード・ファスナー・ボタン・リボンなど細かく、デザイン及び製造に関する規定を決めました。その内容は、
i. 3歳以下の衣類には、14 cm以上の装飾ヒモやリボンを禁止したり、パジャマにフードを付けてはならない。
ii. 上着のウエストについているヒモの長さは、ヒモが入っている部分を完全に伸ばした状態で、外に出るヒモの長さは、どちらの端も14㎝以下、上着の裾に付いているヒモはどちらの端も8 cm以下。
EUでは、2004年欧州標準化委員会(CEN)がコードヒモと引きヒモについて規格を策定し、7歳未満の子ども服はフードや襟首にヒモを付けるのを禁止しました。また、7歳~14歳まではヒモを付けてもいいが、その場合でも長さ等の安全規格を決めており、EUの加盟各国ではその基準を適用しています。英国でも2005年に、ヒモについては、この規格を国内規格と制定しました。
この様に、アメリカとEUではヒモについては明確な基準があります。また、欧米だけではなく韓国・中国・台湾などアジア諸国・地域にも子ども服の安全規格があります。
5.JIS化に向けて
保育園では、フードやヒモ付きの衣類については以前より危険性が認識されており、着用を禁止しているところが殆どです。保護者には入園説明会やお便りで注意を呼び掛けており、もしフード付きのものを着て登園した場合は、園で保管しているフードの無いものに着替えさせたりしています。また、保護者からはフードの付いていない服を探しても見つからないとの声もあがっています。
このような状況の中、NACS東日本支部標準化を考える会は子ども服の安全性に配慮した統一的な基準の策定(JIS規格)を求めて活動してきました。漸く経済産業省において、製造者・販売者・専門家・消費者・行政が一つのテーブルにつき検討が始まり、JIS L4129(よいふく)(子ども用衣料の安全性-子ども用衣料に附属するひもの要求事項)が平成27年12月21日に制定公示されました。