日時 2020年7月18日(土) 15:00~17:00
開催 オンラインウェビナー
主催 NACS消費者志向NACS会議事務局
共催 昭和女子大学
後援 日本消費者政策学会
Ⅰ.開会宣言 NACS 会長 河上 正二 氏
NACSの会長をしております、河上と申します。普段は青山学院大学で民法を教えておりますが、開会宣言で少しだけお話をさせていただきます。
本日の「コロナ後のICT進展と消費者志向経営のあり方についてどう考えるか」というテーマ、これは大変今日的な重要なテーマであります。コロナ禍で人と人との物理的な接触というのが非常に難しくなっているという段階でICTを使ってこのようにシンポジウムが開かれるということでして、これはこれで便利なところもあります。けれども、やはりどうしてもリアルで対面して会場の雰囲気であるとか、皆さんの熱気、あるいはその時々の色々な感覚を手に入れることはとても難しいというようなやむを得ない部分があります。
今大学はリモート講義がほとんどになっておりまして、こういう形でパソコンの目玉の所を見つめながら学生はこの背後にいるのだろうなと想像して色々話しかけてはいますが、やはりそこは今までのようにはいかないこともあり、今後はこうしたツールをうまく使うことと、リアルで対面して熱気を感じ合うというようなもの、両方をうまく組み合わせながらコロナ後の社会を営んでいかなければならないだろうと思います。自粛生活の中で色々と考えさせられることは多いのですが、やはり人間同士のつながりというものが本当に大事だと痛感させられます。
特に、事業者との関係で申し上げますと、これまでの消費者政策や消費者法の考え方では、ややもすれば、一方で事業者がいて他方でかわいそうな消費者がいて、事業者は消費者との関係で利害が相反するようなことがあると考えて綱引きをする。つまり、消費者対事業者というVSの関係で問題を考えるというやり方が多かったのだろうと考えます。しかし、こうした対立構造は決して世の中をうまく動かしていくことにつながらないと最近痛感しております。色々考えていきますと、やはり市場が健全で安心できるような市場になっているということ。そして消費者がその市場で色んな買い物をしたり活動したりする折に、市場に対して信頼感をもっていることが、これが実は市場で健全な経営をしていく事業者にとっても非常に大事な要素ということでありまして、お互いの関係、コミュニケーションを大事にしないといけないと考えます。
NACSは様々な背景をもった人たちが集まって活動しているだけにハブ(HUB)になれるような機関だと個人的には考えているところです。いずれにしても2時間という短い時間ですけれども、充実したオンライン会議ができることを心から祈念して開会のご挨拶に代えさせていただきます。よろしくお願いします。
Ⅱ.ご挨拶 消費者庁 長官 伊藤 明子 氏
皆さんこんにちは、消費者庁長官の伊藤でございます。オンライン消費者志向NACS会議2020、オンラインでの開催は、このようなコロナ禍での生活様式や新しい会議のありように本当に合ったモデルになる取り組みだと思っております。
河上会長をはじめNACSの皆さま方には大変いつもお世話になっております。この場をお借りしまして御礼を申し上げたいと思います。本会議の共催である昭和女子大学につきましては、一般財団法人日本産業協会が開始したマスター消費生活アドバイザー制度の指定大学院として社会人向けの消費者志向コースをこの2021年度に新設されると承知しております。地域の経営者の方や企業のCSR・消費者関連部門にお勤めの方など、幅広い層の様々な方が地域で消費者政策の担い手として活躍されるようになるということを我々としても期待しております。
消費者政策の基本的な方向につきましては、これはまさに河上会長がおっしゃったことでございます。今までの消費者政策では、悪質事業者対策など、どちらかといえば配慮を要する消費者を念頭に置いて行われ、もちろんこれも重要な仕事ですが、事業者それから消費者の協働による経済社会構造の変革について、あるいは今日のようなデジタル化や、まさにコロナのような緊急時への対応などを少し考えていく必要があろうかと思っております。特に、消費者志向経営について申し上げますと、特に消費者を取り巻く環境が非常に変わっておりまして、この中で私自身が一番気にしているのが人口減少です。人口減少ということは、ある意味で言うと、一人一人のその消費者の存在感が大変高まるということですので、いわゆる抽象的な「the消費者」はいなくなり、より一人一人の人に寄り添うということが必要になるのだろうと思います。
また、いろいろな相談業務も、これまでクレーム対応であったものが、一人一人の声をむしろ経営の内部に届けていくことで、一人一人の声が一番の宝になっていく時代になります。そのような業務を担っていただくことも大変大事になっているのではないかと思います。そういう意味では「消費者志向経営」の一つ目は、みんなの声を聴き、かつ活かすこと。まさに現場力をあげ、かつ活かすことが大変大事になってくるということです。
それから、もう一つはSDGsと言いますか、未来とか社会を考えていくということが大事なのだと思います。最近よく申し上げているのですが、新型コロナ、withコロナの社会というのは、まさに、「今だけ、ここだけ、自分だけ」と言ってきたことの限界、「それだけでは社会はうまく回らないのだ」というようなことを再度我が事として認識させたのではと思います。よくCSRと言われますが、CSRというよりはむしろCSV、まさに「Creating Shared Value」、まさに共通価値を創造していくという方向に持っていく必要があると思いますし、当然それを支えるためのガバナンスやコンプライアンスが大事なのだと考えます。そのような観点で、今後、消費者経営自体をどうしたらいいのかということで、今表彰制度の基準などについても見直しの議論をさせていただいているところで、新しくこのような考え方で行ってはどうかということを秋口からの表彰の基準にあげて今年度の公募も始めたいとい考えております。
また、今日はICTの話になりまして、これもさきほどの大きな話題の一つです。こちらについては、「ICTとその消費者問題」「デジタルと消費者問題」をどう考えるかということで、これも樋口先生にご協力いただいて、検討会を開催しているところです。しかし、残念なことに、私共全然デジタルガバメント化ができていないところもありますので、それらをうまく使っていく問題もあれば、先ほど河上会長がおっしゃった、デジタルが良いことはあっても、リアルじゃないとできないこともある。地域の見守りを含めて、そのような役割分担などがあるということもICT問題と消費者ということを考えるにあたっては念頭に置いておく必要があるのではないかと思います。そういう意味で今日は魅力的なプログラムが用意されていると思っているところです。
私共のほうも、これからのことをいろいろと考えながら努力していきたいと思いますので、皆さま方にも引き続きのご協力を頂きますよう、そしてぜひ進化する消費者行政と申しますか、あるいは消費者関連の環境整備を我々としてもしていきたいと思いますので、ぜひよろしくお願いいたします。本日は挨拶の機会を頂きまして本当にありがとうございました。よろしくお願いいたします。
Ⅲ.基調講演 昭和女子大学 グローバルビジネス学部 教授 飛田 史和 氏
本日は「ICTの進展の中で私たちはこれから何をするべきか」についてお話させていただきたい。本日出席の皆様には事前に本件に関するアンケートに回答いただいています。100名以上の専門家のご意見がこのような形で今回まとめられた、整理されたということは大変意義のある重要なことです。皆様の回答を読ませていただいて、私の方で以下の3つのことに整理させていただきました。
<アンケート回答で示された3つの課題>
最初の点は、現在新型コロナ感染の問題が生じてきて、私たちは、強制的にICTを積極的に利用せざるを得ない状況に置かれています。激動する社会状況の中で、ICTを積極的に利用するべきか、そうではないかといった基本姿勢です。
次に、私たちが利用していく場合に、取引の信頼性というものが非常に重要になります。ICTを利用する際に安心して利用できないといけない。ネットでクリックしていざ買うということになると、心配になるドキドキして本当に品が届くのだろうか、大丈夫だろうかとどうしても考えてしまいます。やはりこういうものには信頼性が大切だということです。
三番目にまとめたポイントとしては、ハード面そしてソフト面の格差をなくすべきだという点です。ソフト面ももちろん重要なのですが、今回改めてハード面の重要性を再認識しました。例えばこのオンラインの会議を運営する際にも、十分に配信回線が太くて支障なく届くということが非常に重要です。私はいま大学で授業していますが、オンラインの授業では、高性能のパソコンを持っている先生の方が教育効果が高いといえます。ソフト面で学生に教えるのがいくらうまい先生もそれをハード面で確実に伝えることができなければ、高性能のパソコンを持っている先生にかないません。広くコミュニケーションを図り、ICTのメリットを十二分に活かすためにハード面の格差をなくすということが非常に重要であると思います。
ソフト面では、高齢者の方々が増えて、その人たちがICTの中にうまく入っていく、そのためにはソフト面、使い勝手というのが非常に重要だと思います。高齢者を含めて、幅広い方々がICTを利用できることが重要なのです。
アンケートの結果をまとめると、① ICTを積極的に利用するべきである、②そしてICTを駆使して取引するためにはその信頼性の確保、③それから多くの方に参加していただくためのハード面、ソフト面の格差解消ということが、消費生活に係る専門家の総意として読み取れると思います。
その観点に沿って、具体的な回答の中身を紹介させていただきたいのですが、個人情報の保護、セキュリティの確保とか、第三者による認証だとか、ネット取引のルート確保、などが、これから私たちがICTを利用していくために必要な点として指摘されました。また、ハード面については、一人一台のパソコンの普及、あるいはネット回線の太さの確保についてIT環境の整備、離島におけるユニバーサルサービスの確保などの回答を頂きました。
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(粕谷)事前アンケートをまとめていただきましたが、私たちのこれからのミッションは①取引の信頼性を確保する。ハードソフトの格差をなくすという条件整備が課題になるのか。②それとも、それらを遂行することが課題なのか、どちらなのでしょうか。
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(飛田)安心と格差解消を確保することは、もちろん私たちにとって重要な課題ですが、私はここで一つ問題提起をしたいと思います。それは、「ハード面の整備とか、取引の信頼性確保は重要なことですが、今新しいシステムができている中で、我々はそれだけでいいのだろうか、もう少し何かするべきなのではないだろうか。」ということです。
「消費者と事業者の新しい関係が必要になっている、一歩進めて「自分だけが良い」のではない協力関係が必要ではないか。」。本日、河上会長と伊藤長官がともに冒頭のごあいさつでそう指摘されました。私はご指摘に全く同感です。
私が提案したいのは、「新しい価値を消費者と企業が競争していく、共に創っていく」、ということを今後私たちもやっていく必要があるのではないかということです。そしてもう一点、「新しい価値ができただけでは、世の中は変わるのだろうか、価値ができるためには、消費で選ばれないといけない。選ぶためにはどうしたらよいのか。消費者の方がどうやって選んだらよいか基準を考える。」というものが極めて大事だと思います。
<進化した市場システムで必要なこと>
消費者と企業は対峙してきました。対峙というと少し硬い言葉ですが、お互いに緊張感をもって今までやってきましたが、それでは現在の状況にうまく対応できていないのではないでしょうか。今後の進化した市場システムの中での消費者と企業の関係を転換されるべきではないか、その役割というものを、私は「4.対峙から競争への転換」右側の図で「共創」という言葉で表現しました。
図の左側は今までの市場システムを示しており、消費者と企業は価格をメルクマールとして、“企業が良い品質のものを安く提供して、消費者は一番安いものを選ぶ”というものです。消費者と企業との関係は、取引が公平に成立させるために、弱い立場にある消費者の救済が重点に置かれてきました。これからは、進化した市場システムが出現して、企業と消費者の関係が変わっていきます。変わってきたのではなくて、消費者と企業の垣根が低くなっているともいえます。そういう中では、「情報、信頼性を確保する。プラットホームの責任を考えていく。」、あるいは先ほど申し上げたような、「消費行動を通じた望ましい社会の実現というものを図っていく。」そういうことが必要ではないかと考えます。
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(粕谷)
「価値を創造する」「基準を創る」ことは非常に重要であることを具体的な最近の事例を含めてお話していただきました。それでは、そのことを実現するには私たちはどのようにすればよいのか、何をすればよいのでしょうか。
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(飛田)
<一人一人の能力を上げる、判断力を磨く>
実現に向けて、私たちが何をすればよいのかというお尋ねですが、私は一人一人の能力を上げていく、判断力を磨くことが非常に重要であると考えます。「消費者と企業が価値を共創する」重要性については今までにも多くの人が指摘してこられました。ICTが進展することで、その共創する可能性がより広がる一方で誤った方向性に進んでいく「諸刃の剣」の危険性も孕んでいます。
ICTの進展で非常に便利になったことは良いことですが、一方で瞬時に情報が伝達されるためにオーバーシュートと言いますか、意図せざる方向に大きく動くことがあります。例えば金融市場はしばしばそういう危機に直面します。また、データが非常にたくさん集まると大きな価値を生み出し、大きな影響を与えます。巨大企業がプラットホームを通じて情報を支配し消費者に影響を与えるようになりました。場合によっては濫用というあるいは独占というのが起こりうると思います。
ICTによって進化した市場システムというのは瞬時に情報が伝達されるのでかなり大きく動きます。大きく動くのは我々が主体的に動かしていると考えることもできますが、慎重に一生懸命考えない限りうまくいかないこともあります。そういう意味で新しい市場システムはリスクを抱えているといえるでしょう。
経済学、経営学、社会学、法律など。私たちは、やはり今までのシステム、先人の専門の研究、広い知見を学ぶべきである。市場の声、あらゆるニーズに耳を傾けて、私たち自身が勉強して、試行錯誤で一歩一歩前に進めていく必要がある。
<高度人材育成の必要性>
一昨年に消費者庁は、この分野では専門家が不足しており高度な判断ができる専門人材を育成することが重要であるとの報告書を公表されました。消費者問題を理論的、実践的に学ぶことで判断力を高める必要があるというのは、まさに私が申し上げてきた問題意識に重なるものだと思います。
報告書では具体的な方策として「大学院等の学びの場およびそれと連動した資格制度の拡充」をあげており、この趣旨に沿って、日本産業協会は専門家の活躍の場を更に拡げることを目的とした「マスター消費生活アドバイザー制度」を創設しています。
現在、同志社大学と明治大学が消費者政策分野に関して、そして昭和女子大学が消費者志向経営の分野に関して、マスター消費生活アドバイザーを養成するための指定大学院になっています。
私の所属する昭和女子大学では、様々な立場の専門家がビジネスモデルや社会のルール作りに積極的に意見を言い、創り上げていく場を提供したいと考えています。
本日参加していただいた企業、行政、NPOなどに在籍され、新しい価値作り、判断するためのルール作り、ビジネスモデルの開発に携わっていらっしゃる方が、この方面において積極的に参加して関与していただくことを期待しております。本日はありがとうございました。
なお、基調講演に対し会場から寄せられた多数の質問を別表としてとりまとめましたのでご参照ください。
補足コメント
以下では①当日会議での回答した要旨と、②当日回答できなかった内容について補足的なコメントを追加します。
① 当日会議で回答した内容
教育も含めたICTで日本が遅れているかどうかについて、海外の実情はわからないが、現在大学でオンライン授業を実践中の立場からは、日本は結構進んでいるのではないかという実感をもっています。対面授業に比べてICTを駆使した教育で伝えられることは決して悪くありません。いま、学生はオンライン授業で宿題をいっぱい出されて「ひいひい」言っています。先生もそれを受け取って添削・評価するのに大変な手間がかかっています。これは教育内容の実質化に資するすごく良いことだと思います。一方、対面授業には別の良さがあります。
ICTの進展によって、それぞれがいろいろな工夫をしています。教育の本質が変わるわけではありませんが、例えばコロナ禍によって大学の役割が変化・進化して行っています。ICTが果たす非常に重要な役割なのかなと思います。ICTによって価格以外のシグナルをどのように創り出すかについて、シグナルや基準を定めるのはあくまでも人間です。たしかにICTによってそれを自動化、省力化することは進むでしょう。データをたくさん集めればAIが勝手にシグナルしてくれるかもしれません。しかし、それはあくまでも人が反応したデータをディープラーニングした結果であってICTが単独で創り出したわけではないと思います。
もう一つ、価格以外の選ぶ基準が必要であるとお話ししましたが、人間が複数の選択肢から選ぶためには、ある程度数値化して大小を明らかにしないと難しいと感じています。フェアトレードであれ、レジ袋であれ、価格にある程度転嫁するわけですが、社会の全員の評価が同じであるはずはないので「何円転嫁すれば良い」という正解があるわけではありません。レジ袋は5円がいいのか、2円がいいのか、「ふるさと納税では返礼率を3割以下にするべき」など色々な批判が多く、議論になっています。いろいろな意見があることが大事だと思っていて、新しい市場システムでは議論の中で専門性が高まってより良い仕組みになっていくことが可能であると思います。
炎上に関連したご質問がありました。消費者の意識レベルに関しては消費者教育が重要になると思います。その場合難しいのは炎上にしても、ある人にとって致命的なものでも、そうでもないと思う人がおり、人によって価値判断が違ってきます。それに対する誰もが受け入れられるようなルールはまだあまり確立していないのかと思います。
また、今後道徳観が重要になるだろうというご指摘もありました。たしかに新しい市場システムでは、ご指摘のように何が正しいのか、功利主義への批判といった哲学的な議論(による合意)がより重要になっていくように思います。ただ私は市場メカニズムを否定しているわけではなくて、消費者の選択によって、受け入れられたものが生き残るというのが申し上げた「分権的な投票システム」であり、価格以外の要素も加味した市場メカニズムだと考えます。ICTの進展が否応なく、その方向に押しやっているのです。先ほど私は先行きに関して楽観的と申し上げました。消費という行動は市場を通じた選択の結果であり、必ずしも意識の高い消費者ではなくて、「消費する、しない」という行為、「提供するサービスが必要なものか否か」、なので、そんなに心配する必要はないのではないでしょうか。
② 当日回答できなかった内容について(シンポジウム終了後の)補足的なコメント
時間の制約もあって、別表の質問すべてに対して逐一回答することはできませんでしたが、多様な観点からの質問を敢えて集約すると、個々の消費者が、実際に「価値共創に向けてどう行動すべきなのか、価格以外のシグナルをどうキャッチしたら良いのか」など、「新しい市場システムへの期待と実践へ向けての課題は何か」という質問だったのだと思います。
確かに新しい市場システムでなすべきことが明確に見えているとは言えません。しかし、私は楽観的に考えています。18世紀末に産業革命が起こったとき、人々は資本家と労働者が分断され社会革命が起こると心配されました。しかし、労働者保護立法や福祉政策の充実によりそれは結果として杞憂に終わっています。新しい市場システムの出現においても、今後産業革命の時と同じような結果が得られるのではないでしょうか。現在コロナ禍によって、将来の不確実性が増していますが、新しい市場システムは人々の英知によってみんなを幸せに導いていくと考えています
<「新しい価値を創る」とは何か>
「新しい価値を消費者と企業が共創」するとはどのようなことでしょうか。今までの市場システムでは、「企業が品質の良いものを安く提供し、消費者は価格をシグナルに選択をする。その個々の行動が社会の最大厚生をもたらす。自分の利益だけを考えることが全体の利益につながる。」と考えられてきました。そのような考え方だけでは現実の社会問題を解決できないことが次第に明確になってきました。短期的な利益だけでなく持続的な発展(サステナビリティ)を考える必要があります。「環境に配慮する。企業がESG投資を行う。」、あるいはステークホルダーの配慮など、そういった社会的目的に配慮して私たちは行動していかなければならないのです。
別の言い方をすると、「社会的価値、つながり、お互いの承認、そういったことを個人としても消費している、それに価値を見出していく、創り出していく」、という社会になってきています。そしてICTの進展がその動きをいっそう加速しているのだと思います。
具体例で言うと、住居や車などのシェアリングエコノミー、これはお互いの信頼の中で貸し借りを行うことで新しい価値を生み出しています。それから、クラウドファンディング、これは共感と価値を不特定多数から募るということですけれども、こういったようなものは、「これまで価格が設定されていなかったもの、これに価値を見出して、それを共有するルールを設定して新しい価値を創り出した。」、そういう風に言えると思います。
1点補足すると、価値を共創するというのはクリエイティブで新しい特許を取るような感じがあるかもしれないですが、必ずしもそうではなくて、「社会目的を今までよりいっそう踏み込んだものにする。」あるいは、「もう少し利益と社会目的の配分比率を変える」というものも新しい創造価値であるという考えるべきです。
<消費者が選べるように基準を創る>
次に、消費者が選べるように基準を創るということでありますけれども、新しい価値というものは、消費者が選んで初めて実現することができるので、「消費者がどちらが良いかを客観的に判断できるような基準を創る」、そのような情報提供をすることが必要になります。消費者だけではなく、提供する事業者側も基準創りに参画し、情報提供していくことが重要であると思います。そうしますと、消費することというのは、しないことも含めて、社会を変革する投票行動であるといえます。「意識して消費することで世の中がこういう方向に変わっていく、消費しないことでそういいものが少しずつ少なくなっていく。」、これは投票行動に他なりませんし、しかも、通常の投票とは違って何も制限ないし、みなさんが自由に分権的に参加できます。企業も消費者もこの分権的な投票システムに参画することにより、社会を変えることができるのです。
具体例でいえば、レジ袋の有料化があります。最近スーパー行きますと要るか要らないかと聞かれますけど、有料化することにより消費行動が確実に変わるわけです。それから社会活動として「フェアトレード運動」があげられます。これは途上国の労働者の待遇改善に必要な費用を価格に上乗せして、それを承知で消費者に買ってもらおうという実践例です。それから執行ルールについて批判されている、ふるさと納税ですが、これは「個人の納税行為を地域創生にリンクさせる。」、そういう制度・しくみを新設したわけです。
「消費の範囲をいままでより広く考える。シェアする、しない。納税する、しない。」ということも含めて消費行動で世の中を変えていくことができます。そのためには消費行動に影響する基準、システム、仕組みを考えて新しいメカニズムを導入することが考えられます。そのメカニズムは固定的なものでなく、企業と消費者はこのようなメカニズムをより良いものに改良する、そういう個々の能力向上と緊張関係が、経済学でいう資源の効率的な配分を成功させることができるのです。資源の効率的な配分とは、つまるところ新しい価値創り出してそれを一番必要としている人に届けることであり、そうすればこれからの社会において「みんながハッピーになることを実現できる」、社会全員の努力でそういう方向に近づけていくことができるのではないでしょうか。
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Ⅳ.ディスカッション ①企業の立場から NACS理事/日本生命保険相互会社 人事企画部勤務管理担当部長 河村 秀範 氏
当NACS会議開催前にご協力いただいたアンケートには、102名もの多くの方からご回答をいただき、ご協力に感謝申し上げます。事前アンケート結果から、設問「ICTの進展を、新しい生活様式を踏まえて、どのように感じていますか」について、次の特徴が見られました。
・「消費者の立場から」と「行政・事業者の立場から」と二つの面から回答をいただき、「行政・事業者の立場から」の方が、「積極的に推進すべきである」とする割合が多い【資料1】。
・「消費者の立場から」のみご回答をされた方、すなわち、行政・事業者等との距離感が他の方に比べ遠い方になると思うが、「バランスをとって進めるべき」という方が約7割を占めており、必要性は感じているが、課題への対応をしっかり進めてほしいということが現れていると思われる【資料2】。
・「行政・事業者の立場から」ご回答をいただいた中で、50才代の方は、年代別には、最も「積極的に推進すべき」という方の占率が高く、6割を占めている。ご勤務先等で、所属の中核となって推進されている方、強く必要性を感じている方が多いことの現れのように思われる。
以上のとおり、「消費者の立場から」と、「行政・事業者の立場から」の回答には、ギャップを見て取ることができます。
【資料1】
【資料2】
NACSでは、消費者志向経営の定義を、「消費者志向経営とは、『企業等の組織が社会の一員として、自らの活動によってもたらされる影響を十分配慮し、消費者の権利を尊重し、消費者のニーズや期待にこたえることにより組織の社会的責任を果たす』こと」としています。「環境・社会課題」から「個人情報・セキュリティ」等まで、幅広い領域で社会的な責任を果たすこと【資料3】であり、「消費者志向経営の原則(➀~⑥)」も設けています(2004年策定)。策定後、15年以上経過をしており、この間、社会は大きく変化していますが、これらの原則は変わっていません。
【資料3】
本日、伊藤長官は、消費者政策の基本的方向の中で、「消費者・事業者の協働による経済社会構造の変革が必要」と、基調講演で、飛田先生は、「新しい価値基準を消費者と企業が共創することが必要」と話された。キーワードは、事業者と消費者との「協働」「共創」ということではないでしょうか。
前述の「消費者志向経営の原則」には、 「原則➄ 消費者との対話やコミュニケーションを行う」があります。策定当時は、消費者と生産者の交流、(消費者)モニター制度や消費者との意見交換、CSR活動やCSR報告書等に関連してのステークホルダー・ダイアローグ等でした。今は、原則➄を踏まえて、COVID-19の感染拡大防止、新しい生活様式、ICTの進展、「協働」「共創」というキーワード等、社会の変化に対応していくことが求められています。
事業者の立場に立つと、それぞれに大切にされている経営理念や消費者志向の原則などがあると思います。それを形にしたものが、「消費者志向自主宣言」であり、フォローアップは、「消費者志向宣言」の取組成果や改善内容を公表することです。加えて、フォローアップを通じて、取組内容が、社会の変化に合わせて相応しいものなのか等、見直すきかっけにしていくことが大切だと考えます。
最後に、消費者庁HPに掲載されている選考結果の中から、私の所属する日本生命に関して、簡単にご紹介します。弊社は、2017年1月に「消費者志向自主宣言」を行っています。その後、2018年3月にフォローアップを行い、この度表彰を受けたのは、昨年7月に公表しているフォローアップです。本日のキーワードは、「協働」「共創」であり、フォローアップの中から、「消費者との対話やコミュニケーションに関連する主な取組み」については次に示すとおりです(詳細略)。
・「お客様と社会に向き合う ~地域に密着したコミュニケーション~」について
・SDGs達成に向けた消費者志向の取組みについて
・コミュニケーションの深化に向けた人材育成の強化について
・「日本生命デジタル5カ年計画(2019-2023)」について
消費者志向自主宣言に基づくフォローアップ全体は、非常に幅広く、多岐にわたっており、また、それぞれの項目について具体的に行っています。フォローアップの全体像や詳細、関連事項については、弊社公式ホームページにて、「消費者志向自主宣言に基づく取組結果(フォローアップ)」、「お客様の声白書」、「サステナビリティレポート~SDGsハイライト~」等で確認をお願いします。
Ⅳ.ディスカッション ②個人情報に関する専門家の立場から NACS個人情報保護推進委員会委員長/JIPDEC 認定個人情報保護団体事務局 事務局長 篠原 治美 氏
個人情報保護法とは、個人情報の有用性についてバランスを取りながら、利用しながら安全に利用するという法律です。ただし、勘違いしやすい部分があるため、ここで整理しておきます。プライバシーと個人情報保護は似ていますが違います。プライバシーの概念の方が大きくて、そこに個人情報が含まれます。通常、お饅頭の中のあんこのようなイメージで説明されることが多いと思います。私自身はプライバシーから少しはみ出している部分があるのではないかと思って、資料を作成しました。
プライバシーというのは、私生活に関する知られたくない情報で、三島由紀夫の小説で問題となりました『宴のあと』の裁判が有名です。一方、個人情報保護というのは生存する、生きている私たちの情報であって特定の個人を識別、特定するというものです。そのため、概念が同じところと違ったところがあるということを覚えておくと良いと思います。
また、個人情報保護は一つではありません。既存の個人情報保護法は、企業と国や独立行政法人、地方自治体が守るところはバラバラといえます。次の法律改正では、ここをすべて横串で刺そうと頑張っているところです。
個人情報の定義について確認したいと思います。あなたの氏名は個人情報でしょうか。これはもちろん個人情報です。次に、アニメの主人公の氏名はいかがでしょうか。これは個人情報ではありません。職場のメールアドレスはいかがでしょうか。単体では個人情報ではないと思っているでしょうが、だいたい職場の中では皆様の個人と紐づけて割り振られています。そうすると、これは立派な個人情報となります。さらに、私はJIPDECというところに所属していますが、例えば私篠原治美のメールアドレス(shinohara-harumi@jipdec.pr.jp)から篠原治美という名前を省いたとしても、メールアドレス単体でJIPDECの所属するシノハラハルミということがわかるので個人情報となります。したがって、個人情報として扱いたくないと思われている事業者様もいらっしゃると思いますが、これを個人情報と整理して運用していくことが望ましいと思います。
次に防犯カメラに映ったあなたの顔写真は個人情報でしょうか。これはもちろん顔写真だけで個人情報です。現在の日本の総理大臣は個人情報でしょうか。実は、個人情報になる可能性がたっぷりあるのです。というのは、周囲の情報を補って特定の個人一人に行き着く、日本の総理大臣は一人しかいませんので、立派な個人情報になります。こうしたことをご認識いただきたいと思います。
パスポートやマイナンバーは個人情報ですが、携帯電話番号はいかがでしょうか。これは単体で携帯電話番号としか書いていないところがヒントです。携帯電話の番号だけですと数字の羅列です。一枚のメモに携帯番号だけが記載されて落ちていても個人情報にはなりません。ただし、名簿にしたり、携帯電話番号が誰のものか検索できるようにして管理していると思いますので、携帯電話番号が誰の番号か分かった瞬間に個人情報になりますので、ここも運用が大事になります。
もう一つ、スーパーのポイントカードに記録された買い物履歴はどうでしょうか。これは個人情報です。個人情報は氏名とか、年齢等の基本的な情報だけではありません。私が持っているスーパーのポイントカードに紐づいている買い物履歴、また同様に携帯のGPS機能で行動履歴がずっと紐づいているような情報も個人情報となることを覚えていてほしいと思っています。
個人情報は管理の仕方によって名前が変わっていて、やるべきことが変わっていくのです。法律やガイドラインは、大きな事故や事件がきっかけとなって改正されます。個人情報保護法ができたときに、どうしても保護しなければいけないと過剰反応が生まれました。
JRの福知山線脱線事故の際は、生死にかかわる方々がいらした中で、安否確認がしたくても「個人情報保護法があるからできないよ」とか、「輸血に滞りがでる」等、大きな問題となりました。そこで、本来の法の考え方はそういうことではないということで、適用除外要件が色々と追加されました。また、ダイレクトメールの印刷のためだけなのに、預かっていたクレジットカード情報も一緒に発送会社へ委託してしまい、その情報を従業員が持ち出して売ってしまったという事件がありました。いらない情報は出さない、必要ないものは出さないということが重要です。
技術的な問題が入ってきた事例では、SONYエンターテインメントが、アノニマスというところから標的を受けて、大きな漏えい事故が起こりました。これによって、ガイドラインの技術的なところが修正されました。
次に、共同利用ですが、ポイントカード事業者(黄色いT)の事例です。共同利用というのは、明らかに、こことここが使っているから私たち安心だよねとなるのですが、外縁が広がり続けることで、どこで私たちの情報が使われているのか分からず、私たちの情報が知らない間にどこかいってしまうのは問題があるのではということで変わった例といえます。
その他、ベネッセコーポレーションの事例では、お子さんの情報や妊婦さんの情報が委託先のまた委託先、再々委託がわからないところから持ち出しされて売られてしまったというものです。これは名簿屋に売られたことで、ベネッセコーポレーションとは違う事業者から連絡がくるようになったということがありました。これらの事態が起こらないように、法律の強化をしているというところです。
最近では、ご存じの方も多いリクルートキャリアの事例があげられます。登録していた学生が知らない間に同意を得ずに当初の目的とは違う使われ方がされて、就活エントリーのための登録のために提供した情報にもかかわらず、知らない間に辞退率の分析が行われ、その結果就職自体に影響があるのではないかという点が問題になり、今回の法改正につながっています。(法改正については資料をご覧ください)
法改正といえば、特に、権利利益の侵害という部分は、消費費者志向の観点からものすごく影響することだと思います。技術革新に加え、国際的にデータが越境移転により活用が活発になってきています。今まで、紙ベースで情報を取り扱っていた時には日本の中、事業者の中で閉じられていたものが、知らない間に一気に世界中へ情報が拡散されるということです。さらに、AI、ビックデータ時代を迎え、大量に蓄積されたデータがAIで分析されてしまうということも起こってきます。一般の消費者には想像がつかないような使われ方をされるということです。
そうした時代背景を受けて改正個人情報保護法が今年の6月に公布されましたが、2年以内に全面施行されますので、事業者の皆様はしっかり準備をしていただきたいと思います。私からも、随時情報発信をさせていただきたいと思います。
企業が第三者委員会を設置する機会が増えていますが、専門家や弁護士他、マルチステークホルダープロセスとして消費者の声も取入れ、個人情報の取扱いはもちろん、商品やサービスに反映していくことが大切です。一度漏れた情報は回収できません。ただ指をくわえてみているだけではなく、必要な情報を収集し、自ら発信できるような消費者をつくっていくことが大事だと思います。
Ⅳ.ディスカッション 質疑応答のとりまとめ
昭和女子大学 教授 粕谷 美砂子 氏
昭和女子大学 教授 飛田 史和 氏
JIPDEC 事務局長 篠原 治美 氏
(飛田)
篠原さんから大変重要なお話がありました。これからの社会において個人情報保護は大変重要なインフラであり、消費者が選択するための重要なポイントだと思います。保護の最低水準はクリアする必要があるとして、それ以上に様々な条件から消費者が選ぶ場合、「今後整備すべきプライオリティとしてどういうところが重要だと考えていらっしゃるか、消費者がどのような力をつけていけばいいのか。」そういうことに関して少しお考えを聞かせていただきたいと思います。
(篠原)
おっしゃる通り、消費者にとっては、まだまだ未知の世界といえるのではないでしょうか。まず、個人情報保護法を守るということは、事業者にとってコンプライアンスの観点からも当たり前だと思います。。問題は、法律やルール以外の対応ですね。あえて「炎上リスク」という言葉を使わせていただきますと、個人情報の取り扱いにおいてはとても重要な視点です。ただ法律を守っているから良いということではなく、「本当に必要な情報を本人から取得し、それが何に使われているのか、しっかり本人に説明ができているのですか」ということです。さらには同意を取るという行為が単なるクリックトレーニングという形式だけの同意になっていないかといったことも意識しなければなりません。つまり、事業者が、利用目的をしっかり説明した上で同意を得られているのかということです。その際、消費者にとって大事なのは、事業者の説明が、利用目的と合致しているのかをきちんと見極められることだと思います。
(粕谷)
「知らない間に集められて、知らない間に使われていますが、自分で自分の個人情報がどれだけ、どこへ漏れているのか調べる方法はあるのですか。」というご質問をいただいていますので、篠原さんからコメントをいただけますか。
(篠原)
まさしく今回の改正法の目玉だと思っています。前回の個人情報保護法改正では、事業者は情報をどこから取得してどこに出したか記録を取りましょうということを定めました。今回は、既存の開示対象情報に加え、その記録が新たに開示対象となりました。事業者が持っている情報が何なのか、いつどこから入ってきて、どこに提供されたのかを正当に開示請求できるというものです。
もう一つ、皆さまが一番心配されているオプトアウトという制度ですが、名簿屋が別の名簿屋から取得した情報を、再度オプトアウトで情報提供できなくなりました。つまり、名簿屋から情報を取得することは可能ですが、一度取得した(買った)情報を転売して転々流通できなくなりますので、名簿屋による想定を超えるような拡散の問題が抑えられるのではないかと思っております。
Ⅴ.閉会挨拶 日本消費者政策学会 会長/昭和女子大学 特任教授 樋口 一清 氏
皆さん大変お疲れ様でした。今回は、初めてのオンラインシンポジウムということで色々課題もあったと思います。また、テーマも広範でしたので、総括は難しいと思っています。
「新しい革袋に新しいお酒を」という言葉があります。これは、「古い革袋に新しいお酒を入れてもだめだ」という意味なのですが、ここで革袋を「市場システム」、新しいお酒を「ICT化の進展」という風に捉えてはどうでしょうか。現代においては、ICT化の進展に応じて、市場システム自体も大きく進化しようとしている。これには、コロナ禍の下で、否応なく強いられている面もありますが、古い革袋、つまり、従来型の市場のシステムやそれに対応した消費者の行動ではなかなか解決できない問題も生じています。
ただ新しい革袋にはまだ信頼感がありません。篠原さんから個人情報の話がありました。河村さんからも事業者として実際にどう対応すべきかとの問題提起がありました。新しい革袋を生かして如何にうまくやっていくのか、そこが一つポイントになると思います。特に飛田先生が指摘されたように、この新しいお酒は、価値共創という新たな潮流を生み出す可能性がある。これは、消費者が主体性や消費者主権を取り戻すチャンスとも考えられます。
ただ、会場の皆様からは、個々の消費者が、実際に価値共創に向けてどう行動すべきなのか、価格以外のシグナルをどうキャッチしたら良いのかなど、ご質問がありました。現状は、まさに、先に、ICT関連の技術、イノベーション、すなわち新しいお酒が出来てしまった、我々は準備ができていない。美味しいけれど、飲み方次第で、毒にもなるような葡萄酒ができてしまったということだと思うのですね。
今までの市場システムの背景にある経済の考え方は、消費者行動を含めて、個人主義的な色彩が強かったのですが、新しいシステムの中では、伊藤長官のご挨拶にもありましたけれども、消費者には「今だけ、ここだけ、自分でだけ」ではない行動が求められています。サステナビリティはまさにその例だと思います。これをどう実現していくのか。その中では、冒頭に河上会長からお話がありましたが、人間同士のつながりをどう求めていくのかということが非常に重要になって来ると思います。よく考えてみると、昔は、売り手も買い手もお互いに顔が見える世界に住んでいました。そこでは、価格だけでなく、お店に対する信頼感とか、人と人とのつながりが、商品選択の重要な判断要素になっていました。新しい市場システムでは、これが、もう一回復活する可能性があると思います。ルネサンスという言葉がありますが、まさに消費者がそういう道筋に新しいシステムを導けるかどうかが鍵となると思います。換言すれば、ネットを通じて「顔の見える市場システム」を実現することが課題であると思います。ICTの長所を生かしつつ、課題を解決して、人と人とのつながりが確保できるような新しいシステムを作りあげていくことができればと願っております。
いずれにしても、本日の問題提起を受けて、今後、中小企業も含めて、業種・業態に応じて、関係者が具体的な議論を積み重ねていくことが重要と思います。また、その際、飛田先生のご指摘のように、消費者と事業者をつなぐ人材を育てていくことも急務と思います。
以上、簡単ですが、本日の会議のまとめとさせていただきたいと思います。