「民法」が制定されたのは、約120年前の明治時代です。民法のなかで「契約などに関する基本的なルール」が定められている「債権法」などと呼ばれている部分が現代の社会にあわなくなってきました。そこで、2017年5月に「民法の一部を改正する法律」が成立し、「債権法」が約200項目改正され、2020年4月1日から施行されます。

 その改正の中から、特に日常生活に関わりが深くこれだけは知っておきたいことを身近な事例をもとにQ&A式にしました。また、馴染みの薄い法律用語に親しんでいだけるように「用語チェック」としてわかりやすく解説するよう努めました。そして、最低限これだけは知っておきたい改正のポイントを「これだけは知っておきたい民法改正」としてまとめました。この冊子が日常生活のトラブル防止の一助としてお役に立てれば幸いです。

 なお、この「これだけは知っておきたい民法改正」の作成にあたりまして、助成をいただきました一般財団法人日本宝くじ協会さまには厚くお礼申し上げます。

 

冊子はこちらからダウンロードできます(無償)。

 

(見本ページ)

目次

民法って何? なぜ改正されたの?

CASE1 契約の成立

CASE2 動機の錯誤

CASE3 無効と取消しについて

CASE4 意思能力制度

CASE5 消滅時効

CASE6 祖雲外賠償請求権の消滅時効

CASE7 個人根保証

CASE8 定型約款

CASE9 定型約款の変更要件

CASE10 瑕疵担保責任から契約不適合責任へ

CASE11 賃貸借契約 敷金の返還

CASE12 賃貸借契約 原状回復義務の範囲

理解度チェック

 

もっと知りたい改正民法 ~こんな場合はどうなるの?~

個人根保証契約

個人根保証契約とは、保証人になる時点では、どれだけの金額の債務を保証することになるのかわからない不特定の債務を保証する契約です。

 事 例

知人が賃貸アパートに入居する際に頼まれて連帯保証人になった。突然大家から、「家賃を支払わないまま退去してしまった。滞納していた家賃90万円を支払ってほしい」と連絡があった。賃貸借契約書には、連帯保証人※として負担しなければならない具体的な金額については何も書かれていない。90万円を支払わないといけないのか?

 

 ※連帯保証人

「連帯保証人」の「連帯」には、共同して責任を負うという意味があります。例えば、借金をした知人(主債務者)が返済できる財産がありながら返済しない場合、連帯保証人は一切の責任を負い知人に代わって返済しなければなりません。運命共同体の関係にあるともいわれています。一方、「保証人」は、「知人には返済できる財産があるから、知人から取り立ててくれ」と主張できます。知人が返済できない状況になった場合に、責任を負うことになります。

 

 事例に関する民法の考え方

改正前 ➡ 連帯保証人は90万円を支払わなければならない。

  極度額 (上限額) の定めのない根保証契約が無効となるのは、金銭貸付の契約の場合だけでした。

 

改正後 ➡ 連帯保証人は90万円を支払わなくてよい。

極度額 (上限額) の定めのないすべての根保証契約が無効になりました。

 

FAQ

Q1 施行日前 (2020年4月1日より前) に極度額 (上限額) を定めずに根保証契約をした場合はどうなるのか?

 

A 改正前の民法が適用され、保証人は滞納家賃を支払わなければならない。

改正前か改正後か、どちらの民法が適用されるのか「経過措置」が定められています。

  • 契約に関するルール
  • 売買        原則として
  • 消費貸借      施行日前の契約 ➡ 改正前の民法が適用される
  • 賃貸        施行日後の契約 ➡ 改正後の民法が適用される
  • 保証など  
  • 定型約款に関するルール

    施行日前の契約であっても、原則、施行日後は改正後の民法が適用される 

 

Q2 改正民法の施行後 (2020年4月1日以降) に契約が更新された場合は、改正前改正後のどちらの民法が適用されるのか?

  

A ① 賃貸借契約が単に自動更新されただけで、合意更新がされることなく当初の保証契約が継続している場合 ➡ 施行後も改正前の民法が適用される。

     

なぜ?  賃貸借契約に伴って結ばれる保証契約は、賃貸借契約が更新された場合も含めて、賃借人の債務を保証すると考えられています。ですから、一般的には、賃貸借契約の更新の際に改めて保証契約を結ぶことはありません。したがって、賃貸借契約が自動更新された後も、改正前に結んだ保証契約の効力がそのまま継続します。

 

A ② 当事者が合意によって賃貸借契約と保証契約を更新した場合

    ➡ 改正後の新しい民法が適用される。

    

なぜ?  契約を更新するという内容であっても新たに合意する以上、「契約」であることには変わりありません。民法は、施行日後に契約を締結する当事者は、改正民法が適用されることを前提としているとの考え方に立っています。したがって、極度額 (上限額) の定めのないすべての根保証契約が無効になることを知らなかったとしても、合意により更新された賃貸借契約と保証契約には改正後の民法が適用されることになります。         

 (伊藤陽児弁護士監修)

 

「これだけは知っておきたい民法改正(改正債権法対応)」の冊子の16ページに、根保証契約について掲載しましたので、ご参照ください。