日立における製品安全とサステナブルの取り組み
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今回は、日立グループの一員として、失敗を分析して徹底的に学ぶことを通して、技術を発展させる「落穂拾い」の精神に基づき、品質保証活動に取り組まれている日立グローバルライフソリューションズ株式会社から、品質保証本部 品質統括管理部担当部長 下平仁(しもたい ひとし)氏、カスタマーリレーションズ部お客様相談センター小柳雅子氏をお招きし、製品安全の取り組みなどについてお話をお伺いしました。
まず、日立グループが掲げられている「日立グループ・アイデンティティ」と御社のパーパスについてお話しいただけますか。
日立創業者である小平浪平が抱き、創業以来100年以上にわたって大切に受け継いできた企業理念、その実現に向けて先人たちが苦労を積み重ねる中で形づくられた日立創業の精神。そしてそれらを踏まえ、日立グループの次なる成長に向けて、あるべき姿を示した日立グループ・ビジョン。これらを、日立グループのMISSION、VALUES、VISIONとして体系化したものが、日立グループ・アイデンティティです。
当社のパーパス策定は、全7部門から集まった合計12名のメンバーが、プロジェクトを推進しました。2020年12月に始動し、従業員どうしの様々な議論を経て 2021年3月にパーパスができました。
CS経営行動指針で「製品安全」を最重要な価値として位置づけてこられた背景、御社のヒストリーを簡単にお話いただけますか。
当社は、日立製作所から分社化した会社であり、1916 年に扇風機を世にお届けして以来、洗濯機、冷蔵庫、掃除機などの家電品を販売してまいりました。一方、製品事故もいくつか経験しています。とりわけ発煙・発火のおそれがあるということで、1985年から1989年にかけて、洗濯機や冷蔵庫で立て続けにリコールを余儀なくされました。たくさんのお客さまにご迷惑をお掛けすると共に、対策費用も膨大になったという大きな反省があります。ご存知のように、家電品のリコールでは、自動車と異なりお客さまの全数管理が困難であり、製品の改修・交換は30年以上経った今でも進捗率100%になっていません。そのため、チラシや動画などを織り交ぜながら、1件でも多く探し出そうと捜索活動を続けています。こうした反省から、日立製作所時代の1986年に、事故ゼロを目標にする「日立グルーstyle=”margin: 20px 0;”プQF(Quality First:品質第一)理念」を制定しました。そして1990年には「製品 安全十戒」を設定し、その第一戒に「安全はすべてに優先」 を掲げています。さらに、2020年には、日立製作所社長 のメッセージとして、そのことが改めて日立グループ全社 に示されましたが、元をたどれば1980年代の家電品のリコールが一つの契機になっています。
御社は、これまでに複数回、経済産業省主催の「製品安全対策優良企業表彰(PSアワード)」を受賞されていますが、 製品安全への取り組みにはどのような特徴がありますか。
PSアワードは2007年に創設されましたが、当社はその第一回に応募し、金賞(現在の大臣賞)を受賞しています。 その後も複数回応募していますが、取り組みのベースはほとんど変わっていません。まず、製品内部の部品等が焼損しても外部へ二次被害が及ばないことを確認する「最終状態試験」の実施です。次に、製品事故は新型開発の設計変更時等に出ることが多く、その検討漏れを防ぐリスクアセスメントの徹底です。そして最後は、製品安全に対する、工場を含めた全従業員の意識醸成活動です。ちなみに、2022年度のPSアワード「技術総括・保安審議官賞」受賞時に事務局から開示された3つの評価ポイントは次の通りでした。一つは、製品安全実現に向けたガバナンスの強化です。つまり、製品安全設計に係るプロセスを再検証し、PSデザインレビューやPSリスクアセスメント実施をフェーズゲート*要件に指定して、品質保証部がこのゲート審査を厳格に運用し続けている点です。二つ目は、「最終状態試験」の徹底による製品事故の未然防止です。三つ目は、 製品安全を最優先する企業文化の醸成に向けた不断の努力と実践です。これらは、当社がベースとして考えているところとほぼ同じで、評価につながったと考えます。
家電品では経年劣化による製品事故発生のおそれがありますが、その防止のためにどのような取り組みをされていますか。また、消費者としては、できれば買い換えずに長く使いたいと思いますが、注意点があれば教えてください。
経年劣化事故については、例えば、モーターコイルなどの巻き線部品は経年劣化が避けられないので、長く使うと層間ショートが発生して発煙・発火に至るおそれが出てきます。そのため、こういった部品や部位は、あらかじめ鋼板や不燃布で覆うなどのモノづくりをしています。当社のポリシーとして、「経年劣化だから火災が起きても仕方ない」ということは許されないと考えております。なお、そうは言っても、電気絶縁部は必ず劣化しますし、製品には寿命があります。そのため、これは高齢者に限らずですが、「消費者は使用年数や経年劣化事故への意識を持つこと」が大切だと思います。絶対に何十年も大丈夫ということはないので、長期使用製品で焦げくさい臭いがする、触るとビリビリするなどがあったら、すぐに使用を中止して、サービスへの連絡や買い替えのご検討をいただければと思います。
デジタル社会の進展に伴い、IoT(Internet of Things) 家電・スマート家電の普及が進んでいますが、御社の取り組み状況を教えていただけますか。また、その進化に消費者はついていけるのでしょうか。
当社ではコネクテッド家電*が該当します。現在は高級機のみですが、今後は普及機にも拡大したいと考えています。家電品がインターネット(以下、ネット)につながることで、好みに合わせた料理レシピとか、衣類に合わせた洗濯コースなどをダウンロードして製品に取り込めます。また、製品本体のソフトウェアに更新があったら、それをアップデートすることで、製品を長く快適に使っていただけるツールになります。コネクテッド家電では、ネットへの接続設定が課題です。使用するスマホの型式やOS、ネット環境によって、デジタルリテラシーの高い方からも、「接続できない」との問い合わせが入ることがあります。そうしたご意見をもとに、アプリや取扱説明書(以下、トリセツ)の改良に取り組んでいます。また、超高齢社会を迎え、自分だけが取り残されるように感じる方は確かにいらっしゃいますが、 コネクテッド家電には、それを補って余りあるメリットもありますので、誰でも使うことができるよう、十分な配慮をしていきたいと考えています。
*「コネクテッド家電」はネットとつながるスマート家電を表す日立の登録商標
家電品のスマート化が進む中で、トリセツや消費者への説明で苦労されていること、工夫などはありますか。
スマホやパソコンの世界では紙のトリセツがなくなってきており、お客さまが何かわからないことがあったら、自分でネットから調べなければいけない形になっています。 家電品でも、既に一部製品でトリセツはWebに移行中ですが、紙が無くても良いのか、という大きな議論があります。特に、安全に関わることや使い方の注意点は、紙とWebのハイブリッド化が必要と考えているところです。 また、洗濯機などの家電品に二次元バーコードがあると、そこをかざすと使用場面が動画で出てきてすぐにわかるという便利さがあると思います。二次元バーコードは、広い世代で使いやすく、かざすとさまざまな情報が出てくるので、 有効なツールの一つかなと感じています。
この度、日本のオンラインマーケットプレイス(OM)運営事業者が、製品安全誓約に署名されました。このような動きについて、どのようにお考えでしょうか。
基本的には歓迎すべき動きだと思います。製品安全誓約に署名された事業者は、今後自らもリコール情報等を監視して、対象品と分かれば、出品停止などの適切な処置を講じてくれることになります。国内の家電メーカーは、販売業者と常に連携しているので、それほど大きな問題はありませんが、海外製品については一定の効果があると思います。始まったばかりの制度なので、これからOM運営事業者がどのように活用していくかについては、われわれメーカー側も一緒になって見ていく必要があると思っています。
製品安全とサステナビリティの関係はどのように位置づけられるでしょうか。
お客さまが修理して長く使いたいと思うのは当然だと思います。地球環境を考慮したとき、まだまだ使えるのに買い換えるとか、どんどん廃棄していくという姿は好ましいものではありません。そのため、当社では前述のように経年劣化対策を講じていますし、お客さまにも定期的なメンテナンスなどによって、長くお使いいただきたいと思っています。また、当社ではリファービッシュ(メーカーによる再整備済み製品)の販売を2022年10月から直販サイトで開始したほか、コネクテッド家電のサブスクリプションなどにも取り組んでいます。
御社の環境経営の取り組みについて、推進体制や具体的な事例を教えていただけますか。
日立グループとしてめざす「環境ビジョン」があり、それにもとづき長期目標である「日立環境イノベーション2050」の実現をめざし、3年ごとに「環境行動計画」を設定し推進しています。具体的には、環境負荷の低い製品開発やグリーンソリューションの開発、カーボンニュートラル達成に向けたCO₂削減活動、高度循環型社会実現に向けたモノづくりに注力しています。
高度循環社会の構築のためには、従来の直線型経済から循環型経済への移行を推進しています。この実現に向けて生産プロセスにおける水使用量の削減、3R(Reduce、Reuse、Recycle)の推進、製品の長寿命化と小型・軽量化などを推進しています。
家電リサイクルにおいては、製造拠点である栃木事業所の敷地内に家電リサイクルプラント((株)関東エコリサイクル)を有し、開発・設計からリサイクルまで一貫して取り組める体制を敷いています。新たなリサイクル技術の開発にも積極的に取り組み、従来は廃棄していた部材の水平リサイクルを可能とするなど、資源の有効利用を図っています。とくに、プラスチックの資源循環をより一層促進するため、家電製品の自己循環型プラスチックリサイクルシステムの構築に向けて、日立グローバルライフソリューションズグループ全体で取り組んでいます。このシステムを活用して、スティッククリーナーや冷蔵庫、洗濯機など、製品における再生プラスチック使用率を拡大しています。
また、 2022年10月から、初期の返品の再生販売事業(リファービッシュビジネス)に取り組み、当社が運営しているオンラインストアで展開しています。
御社はお客さまの声を⼤切にされていますが、消費者の声は製品安全や顧客満足向上にどのように生かされているのでしょうか。
お客さまの声は非常に大切だと思っており、その中には製品安全に関わる事項もあります。当社では品質保証本部内にVOC(voice of customer)センターを設置して、製品やサービスに対するさまざまな声を製品ごとに専任者が集約・分析を行っています。そして、その結果は社内の関連部署と常に情報共有を図り、製品改善に生かしています。
CS(Customer Satisfaction)部門では、「360°ハピネス~ひとりひとりに、笑顔のある暮らしを~」をスローガンに、あらゆる年齢や地域の人々のQuality of Life(QOL)を向上するサービス・ソリューションを提供しています。
洗濯機や冷蔵庫などの家電製品に関するご質問や、修理のご依頼、製品に対するご不満を含め、年間約204万件のご意見が「お客様相談センター」や「修理受付センター」のコールセンター、Webサイトなどを通じてCS部門に寄せられています。お問い合わせへの対応品質のさらなる向上を図るとともに、お客さまの声をモノづくりに反映させるため、接続率の改善や、ご相談・ご質問・苦情などお客さまの生の声のデータベース化、Webサイトに掲載するFAQの充実などに取り組んでいます。
また、全国約90カ所のサービスセンターでは、「お客さま評価サービスアンケート」を毎月実施し、集計結果に基づいたCS研修会を開催するなど、さらなるサービスの改善に努めています。
2022年度は27,000件以上のお客さまにアンケートに回答いただき、うち92.6%のお客さまにご満足いただいている結果となりました。
最後に、消費者は安全に使えて当然と思っていますが、 安全に使い続けるために、消費者にこれだけはお願いしたいということがありましたら、お願いします。
カタログやトリセツに「安全にお使いいただくために」の項があるので、これを守っていただきたいと思います。また、日本電機工業会(JEMA)や家電製品協会(AEHA)のホームページにも取り扱いに関する注意点が分かりやすく載っていますので、是非こちらも参照いただければと思います。消費者も家電品を長く使っている認識と間違った使い方をしていないかの責任を意識していただき、適切なお手入れをしていただくことで、長く安全にお使いいただけると思っています。
インタビュー後記
私たちが、ごく当たり前に使用している様々な家電製品は、安全だと思っています。今回のインタビューを通じ、 製品安全というものが、企業のたゆまぬ努力の積み重ねと、消費者視点に基づいた企業姿勢そのものであるという思いを新たにしました。
そのことは、「製品安全十戒」という企業文化とも言える理念に端的に表されています。消費者は、企業が製品安全に取り組んでいる実情を知る由もありません。しかし、その取り組みに思いを馳せ、製品を使う上でカタログやトリセツの内容をしっかり守り、 誤使用等による事故が起こらないようにすることも消費者としての責務ではないでしょうか。
(副会長:永沢裕美子)
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