花王様インタビュー 2023年4月12日公開
今回は、130年以上の長きにわたり、消費者の視点を最重要視されて経営に取り組まれてきた花王(株)から、ESG部門ESG戦略部マネージャー 棚橋弘枝さん、生活者コミュニケーションセンター センター長 野村由紀さんをお招きし、企業理念である「花王ウェイ」の考え方やESG戦略として推進されている「Kirei Lifestyle Plan」の取り組み、そして消費者とのコミュニケ―ションを大切にした製品づくり、などについてお話を伺いました。
長寿企業には、長寿の秘密と言われる企業理念があるそうですが、御社が創業以来大切にされているお考えなどありましたら、お聞かせください。
このような生活者目線の製品をご提供し続けている土台にあるのが、企業理念の「花王ウェイ」です。当社の使命は「豊かな共生世界の実現」です。「ビジョン」には「人をよく理解し、期待の先いく企業に」を掲げており、生活者を一番に考えて製品開発に取り組んでいます。そして、基本となる価値観に「正道を歩む」があります。倫理的な企業として最近ご評価いただいておりますが、この考え方は、今に始まったことではなく、脈々と花王に受け継がれているものです。最近になって世の中の流れが変わっていく中で、改めてご評価いただけるようになってきているのかな、と考えています。また、「よきモノづくり」は、真に優れた製品をお客様にお届けしようという考え方、そして、「絶えざる革新」は、現状に満足する事なく、常に新しく革新的であるべきという考え方です。
経営戦略という点では、最近では、ESG経営に積極的に取り組んでおられるようですが。。。

ESGビジョンや戦略を策定する際にキーワードとなったのが、生活者を主役とした「Kirei Lifestyle」という概念です。環境だけでなく社会的な視点として「こころ豊かな暮らし」、「おもいやり」という考え方を取り入れ、EGSビジョン及びEGS戦略「Kirei Lifestyle Plan」を策定しました。ESG戦略の主軸となっているのが、「快適な暮らしを自分らしく送るために」、「思いやりのある選択を社会のために」、「よりすこやかな地球のために」という3つのピラーです。「自分らしく」はMeの視点、「社会のために」はWeの視点、「地球のために」はPlanetの視点ということで、「Me We Planet」と呼んでいます。
それでは、ここからは、具体的なお取り組みについてお聞きしていきたいと思いますが、Planetの視点から、どのようなお取り組みを進めていらっしゃいますか?
そこで、花王は製品の主な使用場面である「洗浄」や「すすぎ」の際に使用する水の削減を通じてCO2削減に取り組んでいます。例えば「アタック ZERO」は“すすぎ一回”ですので、水の使用量や電気代を減らすことができます。その結果として、CO2排出の削減を達成することができるのです。さらには、素早い泡ぎれですすぎが早く済むといった食器用洗剤などを提供し、節水と節電、そしてCO2削減に取り組んでいます。

ところで、昨今問題になっているプラスチック包装容器についても、御社は早くから取り組んでおられますね。
また、製品の性能を高めてコンパクト化することで、1回当たりの使用量を減らし、原材料やエネルギーの消費、さらには使用後のプラスチックごみの量を少なくするという取り組みも行ってきました。こうしたコンパクト化製品の代表が、1987年に発売した衣料用粉末洗剤の「アタック」です。いまやコンパクト洗剤は一般的になりましたが、現在の洗剤は、コンパクト化以前の洗剤と比べて、製品の重量で50%、箱の体積で70%削減されています(1回使用当たり)。製品のコンパクト化によるプラスチック削減量は約6万トン(2021年実績)に上ります。
ただし、節水型製品も、つめかえ・つけかえ製品も実際に購入してお使いいただかないとCO2やプラスチックの削減にはつながりません。そこで、昨年から「もったいないを、ほっとけない。」という企業広告シリーズを開始し、循環型社会に貢献する「ESGよきモノづくり」に根差したイノベーションや企業姿勢をお伝えしています。
「リサイクリエーション」は、使い終えたものを再び資源に戻す「リサイクル」と、新たに価値を創造する「クリエーション」を合わせることで、従来のような同じモノに戻すのではなく、より楽しいモノ・よりよいモノを創り出す、アップサイクルを意味する、当社の造語なんです。

神戸市では「神戸プラスチックネクスト~みんなでつなげよう。つめかえパックリサイクル~」プロジェクトに参加しています。このプロジェクトは、自治体と製造・販売・回収・再生に関わる複数の企業等が「競合」の垣根を超えて「協働」で、洗剤やシャンプーなど使用済みの日用品のつめかえパックを分別回収して再びつめかえパックに戻す「水平リサイクル」をめざし、ライオン様だけではなくて、ユニリーバ様、コーセー様なども参画されています。
そして、当社の和歌山研究所に導入したフィルム容器リサイクルのパイロットプラントでは、リサイクル技術の開発・検証をすすめています。その進捗状況は、ニュースリリース等でご報告させていただきながら、一緒に活動していける仲間づくりを行っています。仲間をどんどん募っていくという活動を通して、オールジャパンでの活動に発展し、それがさらにオールPlanetの活動になっていけばと考えています。


SDGsトレインに掲載されたポスター
ところで、花王といえばシャンプーボトルのユニバーサルデザインを始められたことでもよく知られていますね。


それでは、ここからは、御社が、お客様や消費者の声をどう捉え、どのように経営につなげていらっしゃるかをお聞きしたいと思います。まず、最近の消費者相談の傾向はいかがでしょうか。
私たちは、若い人の困り事にもしっかり答えていかなければならないという使命感と、若い人たちの声も集めたいという思いから、2つの取組みを実施しています。
ひとつは、気軽にもっとご相談ができるようにと有人チャットを活用しています。2021年から導入を始めて、全カテゴリーで2022年3月から稼働しています。チャットの場合は即答できるので、利用状況を見ると、若い人たちが多い状況になっています。もう一つは、お客様の自己解決をサポートできる仕組みの構築です。当社のホームページの中に「製品 Q&A」というサイトがありますが、Q&Aの数を増やして、検索した時に自分が知りたいことがすぐ分かるようにしています。
このホームページのQ&Aへのアクセス数は、年間に寄せられる相談件数のおよそ20倍のアクセスがあるという状況になっています。こうした仕掛け作りを通して、若い人たちの声や関心をできるだけ捉えていこうという活動を行っています。
デジタル化で若い人たちのメール利用が増えるのかな、と思っていましたが、メールの構成では、確かに若年層は多いのですが、実はトレンドで見るとそんなに比率は変わっていないんですね。コロナ禍で窓口電話を閉鎖せざるをえなかったことから、メールの比率は増えましたけれども、年齢構成はそんなに変わっていません。2022年も昨年のデータに比べて、むしろ減っているぐらいの状況です。そうしたことから、自己解決を手助けする活動として、Q&Aを増やしたり、製品情報を充実させる活動に力を入れています。

トップマネージメントにどう上げていくのかというところに関しては、特に品質の課題など緊急性の高いものに関しては、担当部署から直接経営層に上げていきます。さらに、改善に繋がるような提案などは、相談担当部署からマーケティングや製品開発の部署に情報提供するという仕組みになっています。
相談部門では、特に品質に関わる問題については、商品コミュニケーション部が担当していますが、品質向上検討会が月に1回開催され、各事業部ごとに事業部長をはじめ関係する生産部門、研究部門及び品質保証の担当者が一堂に会して、当月の相談状況や課題を共有しています。
その中で、品質の課題や新製品の問い合わせなど、さまざまなお客様の声を共有して、「よきモノづくり」に反映しており、花王の一貫した姿勢だと言えます。
お客様対応を担当している私たちとしては、品質課題だけではなくて、いただいたお客様の声を活かして、ESGの視点で生活者の皆様に役に立つ提案をしていきたいと常々考えています。例えば「アタック」では、一年に一回の改良を行っています。以前は、ボトルを継続して使いたいというお客様に対して、「改良をして中身が変更になっています。安心してお使いいただくため、新しいボトルを是非買ってください」といったご案内をしていました。そういった対応の中で、お客様から「ESGを標榜している会社なのに、ボトルがもったいない。なぜそんな改良するのか?」といった声が寄せられたことから、つめかえに際し、安全性等を確認の上、「使い切ってから中身が空の状態でつめかえてください」というつめかえの表示に変え、製品を改良した後も同じ本体が使えるようにしました。これは事業部横断で集まる開発関連の会議で提案し、決定にいたったものです。
品質課題の改善だけではなく、ESGを標榜する会社として自信をもってお客様にもご紹介ができるように、お客様の声を活かす活動を心がけています。
このプログラムでは、動画の教材スライド、教材印刷用の副教材など、いろいろ自由に組み合わせができるようになっています。先生方がお話しながら授業を展開されたければ、スライドを活用すればよいですし、動画だけ見せて理解を促すことも可能なので、使い勝手がたいへん良くなっています。非常に好評をいただいており、現在、全国2万の小学校に案内を開始して、まずは5,000校に提供しようということで進めているところです。ろう学校向けの教材についても、聴覚障がいを持つ花王グループ社員を中心とした社内コミュニティ「KAKEHASHI(かけはし)」のメンバーの協力によって、2021年9月に「みんなで手あらい ろう学校向け」が誕生しました。盲学校でも使っていただける教材の開発もしており、その開発秘話についても、当社ホームページのこちらのサイトで紹介しています。
最後になりますが、消費者へのメッセージを一言でお願いいたします。
インタビュー後記:
今回は、第二回目のリレーインタビューとして花王(株)ご担当者様をお迎えし、企業理念である「花王ウェイ」の考え方やESG戦略についてお話をお聞きしました。
「エビデンスに基づいて」生活者とコミュニケーションするという姿勢は、「花王ウェイ」に謳われた基本となる価値観「正道を歩む」を実践している現れだと思いました。生活と密接に関係する製品を提供している企業として生活者と共に考え、一緒に行動するという活動を地道にされています。
これらは、いずれも私達のような消費者団体にとりましても、非常に示唆に富むお話であり、大変勇気づけられるインタビューとなりました。
(エシカル消費啓発PTメンバー 本多洋治)