nacs 公益社団法人 日本消費生活アドバイザーコンサルタント・相談員協会

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花王様インタビュー

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今回は、130年以上の長きにわたり、消費者の視点を最重要視されて経営に取り組まれてきた花王(株)から、ESG部門ESG戦略部マネージャー 棚橋弘枝さん、生活者コミュニケーションセンター センター長 野村由紀さんをお招きし、企業理念である「花王ウェイ」の考え方やESG戦略として推進されている「Kirei Lifestyle Plan」の取り組み、そして消費者とのコミュニケ―ションを大切にした製品づくり、などについてお話を伺いました。

NACS NACS担当者

創業から130年を超えて発展を続けておられる、これはすごいことですね。

長寿企業には、長寿の秘密と言われる企業理念があるそうですが、御社が創業以来大切にされているお考えなどありましたら、お聞かせください。

当社の原点となっているのは、およそ130年前に高級化粧石鹸として発売した「花王石鹸」です。当時は、良質な石鹸は海外からの輸入品しかなく、創業者である長瀬富郎は、国産の高品質な石鹸を作ろうという強い思いから、黎明期の頃に高品質の石鹸を作ってご提供いたしました。これが花王のルーツになっています。その後も、“洗う”を主軸に、新しい価値を生活者の皆様にお届けするという考え方のもと、エビデンスに基づいた性能と品質を担保した日本初となる製品をご提供してまいりました。そして、清潔から美、健康、さらには環境といった事業領域へ伸ばしています。

このような生活者目線の製品をご提供し続けている土台にあるのが、企業理念の「花王ウェイ」です。当社の使命は「豊かな共生世界の実現」です。「ビジョン」には「人をよく理解し、期待の先いく企業に」を掲げており、生活者を一番に考えて製品開発に取り組んでいます。そして、基本となる価値観に「正道を歩む」があります。倫理的な企業として最近ご評価いただいておりますが、この考え方は、今に始まったことではなく、脈々と花王に受け継がれているものです。最近になって世の中の流れが変わっていく中で、改めてご評価いただけるようになってきているのかな、と考えています。また、「よきモノづくり」は、真に優れた製品をお客様にお届けしようという考え方、そして、「絶えざる革新」は、現状に満足する事なく、常に新しく革新的であるべきという考え方です。

NACS NACS担当者

「花王ウェイ」は、消費者庁が実施している消費者志向経営優良事例表彰の第1回にあたる平成30年度に、御社が最高の内閣府特命大臣表彰を受賞された際の受賞理由でもありましたね。この考え方は創業当時からの理念が何世代にもわたって受け継がれ、花王の企業理念「花王ウェイ」として具現化されたものなのですね。

経営戦略という点では、最近では、ESG経営に積極的に取り組んでおられるようですが。。。

Kao way

はい。長く「花王ウェイ」を企業理念として活動してまいりましたが、昨今、自然環境、社会環境が大きく変化したことを受け、2019年に社長だった澤田道隆が企業自らが変わらなければ取り残されると判断し、「ESGを経営の根幹に据える」という宣言をいたしました。これまでの企業活動の中で培ってきた「よきモノづくり」の思想を、「ESGよきモノづくり」へと高め、環境や社会に配慮した取り組みのより一層の強化を図っています。

ESGビジョンや戦略を策定する際にキーワードとなったのが、生活者を主役とした「Kirei Lifestyle」という概念です。環境だけでなく社会的な視点として「こころ豊かな暮らし」、「おもいやり」という考え方を取り入れ、EGSビジョン及びEGS戦略「Kirei Lifestyle Plan」を策定しました。ESG戦略の主軸となっているのが、「快適な暮らしを自分らしく送るために」、「思いやりのある選択を社会のために」、「よりすこやかな地球のために」という3つのピラーです。「自分らしく」はMeの視点、「社会のために」はWeの視点、「地球のために」はPlanetの視点ということで、「Me We Planet」と呼んでいます。

NACS NACS担当者

「Me We Planet」という、まさに三方から「Kirei Lifestyle」をめざしていらっしゃるということですね。それでは、ここからは、具体的なお取り組みについてお聞きしていきたいと思いますが、Planetの視点から、どのようなお取り組みを進めていらっしゃいますか?

花王は、ご家庭に日々の生活の中でお使いになる日用品を提供している会社です。花王の製品のCO2排出量をライフサイクルで見たとき、最も排出量が多いのはご家庭での使用段階であり、次が原料調達、廃棄の場面となっています。自社での温暖化ガスの排出削減はかなり進んでいますので、課題はご家庭での削減となります。実際、温暖化ガスの排出の6割が家庭であるというデータもあります。

そこで、花王は製品の主な使用場面である「洗浄」や「すすぎ」の際に使用する水の削減を通じてCO2削減に取り組んでいます。例えば「アタック ZERO」は“すすぎ一回”ですので、水の使用量や電気代を減らすことができます。その結果として、CO2排出の削減を達成することができるのです。さらには、素早い泡ぎれですすぎが早く済むといった食器用洗剤などを提供し、節水と節電、そしてCO2削減に取り組んでいます。

花王制品ライフサイクル各段階で排出されるco2の割合
NACS NACS担当者

なるほど、コンパクト洗剤は水資源の節約というだけでなく、温暖化ガスの削減にも貢献しているんですね。これは全く意識しておりませんでしたので、重要な学びになりました。

ところで、昨今問題になっているプラスチック包装容器についても、御社は早くから取り組んでおられますね。

はい、今ではすっかりおなじみになっているつめかえ製品ですが、花王が最初のつめかえ製品を発売したのは1991年のことになります。中身をつめかえることで、シャンプーや液体洗剤のプラスチック本体容器をくり返し使うことができ、省資源とごみの削減に役立っています。

また、製品の性能を高めてコンパクト化することで、1回当たりの使用量を減らし、原材料やエネルギーの消費、さらには使用後のプラスチックごみの量を少なくするという取り組みも行ってきました。こうしたコンパクト化製品の代表が、1987年に発売した衣料用粉末洗剤の「アタック」です。いまやコンパクト洗剤は一般的になりましたが、現在の洗剤は、コンパクト化以前の洗剤と比べて、製品の重量で50%、箱の体積で70%削減されています(1回使用当たり)。製品のコンパクト化によるプラスチック削減量は約6万トン(2021年実績)に上ります。

ただし、節水型製品も、つめかえ・つけかえ製品も実際に購入してお使いいただかないとCO2やプラスチックの削減にはつながりません。そこで、昨年から「もったいないを、ほっとけない。」という企業広告シリーズを開始し、循環型社会に貢献する「ESGよきモノづくり」に根差したイノベーションや企業姿勢をお伝えしています。

NACS NACS担当者

御社は、リサイクルにも積極的に取り組んでおられますね。

リサイクルに関しては、回収・分別・再利用という社会的な枠組みを作らなければいけないということで、循環型社会への新しいシステム・ライフスタイルの提案のひとつとして、地域の方々やパートナー企業と協働し、洗剤やシャンプーなどの使用済みのつめかえパックを回収し、再生樹脂に加工して提供する「リサイクリエーション」という活動を展開しています。

「リサイクリエーション」は、使い終えたものを再び資源に戻す「リサイクル」と、新たに価値を創造する「クリエーション」を合わせることで、従来のような同じモノに戻すのではなく、より楽しいモノ・よりよいモノを創り出す、アップサイクルを意味する、当社の造語なんです。

リサイクリエーション
NACS NACS担当者

2022年の令和2年度の消費者志向経営優良事例表彰で選考委員長表彰をライオン(株)と一緒に受けられましたが、その理由が、使用済みつめかえパックの回収と再生を行う「リサイクリエーション」でした。

本来競合となるライオン様、流通のイトーヨーカ堂様、ウエルシア薬局様とは「資源循環型社会の実現」という社会課題の解決のために、生活者の行動変容を促すべく、協働して取り組みを進めています。そして行政では、回収を実施しているイトーヨーカドー曳舟店のある墨田区にもご協力いただいています。回収は、自治体様のご理解を得なければなりませんし、回収ルールが自治体によって異なっているというところも難しいところです。 神戸市では「神戸プラスチックネクスト~みんなでつなげよう。つめかえパックリサイクル~」プロジェクトに参加しています。このプロジェクトは、自治体と製造・販売・回収・再生に関わる複数の企業等が「競合」の垣根を超えて「協働」で、洗剤やシャンプーなど使用済みの日用品のつめかえパックを分別回収して再びつめかえパックに戻す「水平リサイクル」をめざし、ライオン様だけではなくて、ユニリーバ様、コーセー様なども参画されています。

そして、当社の和歌山研究所に導入したフィルム容器リサイクルのパイロットプラントでは、リサイクル技術の開発・検証をすすめています。その進捗状況は、ニュースリリース等でご報告させていただきながら、一緒に活動していける仲間づくりを行っています。仲間をどんどん募っていくという活動を通して、オールジャパンでの活動に発展し、それがさらにオールPlanetの活動になっていけばと考えています。

NACS NACS担当者

まさにPlanetの視点から「Kirei Lifestyle」を進めていらっしゃることが、よくわかりました。参加されている方々の活動の写真を拝見しますと、自分事として「リサイクリエーション」の活動に参加しておられて、いい表情をされています。消費者の行動変容を促す社会実験が成功していると言えると思いますが、こうした消費者の行動変容を促すために、どのような点を特に大切にされていますか?

まずは生活者に私たちの考え方や取り組みを知ってもらい、共感いただき、手に取っていただくことが重要だと考えています。先に「もったいないを、ほっとけない。」という企業広告をご紹介しましたが、それ以外にも企業広告を展開しています。西日本では阪急・阪神様、東日本では東急様がSDGsトレインを運行されていますが、その車内に企業広告ポスターや動画を掲載いただいています。そこでは、実際にどの程度のプラスチックの削減につながったかを客観的なデータをお示ししつつ、生活者の皆様のご協力のおかげで達成できたという感謝をお伝えしています。このような広告が、日々の暮らしに無理なくサステナブルな生活を送っていただく気づきになればと考えています。

SDGsトレインに掲載されたポスター

SDGsトレインに掲載されたポスター

NACS NACS担当者

「リサイクリエーション」の輪が大きく広がっていくといいですね。ところで、花王といえばシャンプーボトルのユニバーサルデザインを始められたことでもよく知られていますね。

はい、花王では生活者視点での製品開発という観点から、早くからユニバーサルデザインの取り組みにも積極的に取り組んでまいりました。1991年にはボトル容器の横にきざみをつけて、目が不自由な方でもシャンプーとリンスを区別してお使いいただけるシャンプーボトルを提案しました。さらに、実用新案の申請を取り下げ、シャンプーのきざみが業界統一のものとなるよう業界各社にはたらきかけ、現在ではほとんどのシャンプーに「きざみ」がつくようになりました。その後もユニバーサルデザインの視点は、多くの製品に受け継がれています。先ほどご紹介しました「アタック ZERO」のポンプも様々な細やかな配慮を搭載しています。また、つめかえ用「ラクラクecoパック」には、生活者の皆さまがご負担に感じることなつめかえていただける工夫がたくさん搭載されています。

アタックZEROワンハンドタイプ

らくらくecoパック

NACS NACS担当者

こうしてお話をうかがっておりますと、御社が、消費者がどう行動するかというところも意識されて、製品づくりや消費者とのコミュニケーションに取り組まれていることがわかってきました。ここに、御社が130年を超えて長く人々に愛される製品をつくりだせてきた理由があるように思います。

それでは、ここからは、御社が、お客様や消費者の声をどう捉え、どのように経営につなげていらっしゃるかをお聞きしたいと思います。まず、最近の消費者相談の傾向はいかがでしょうか。

実は今、花王に寄せられる相談件数は全体としては減る傾向にあります。原因としては、若い人たちは何かあるとすぐにスマホで調べるという習慣ができていて、余程のことがない限り、電話をかけてこない、メールでも相談しない、という状況になってきているためです。私たちは、若い人の困り事にもしっかり答えていかなければならないという使命感と、若い人たちの声も集めたいという思いから、2つの取組みを実施しています。

ひとつは、気軽にもっとご相談ができるようにと有人チャットを活用しています。2021年から導入を始めて、全カテゴリーで2022年3月から稼働しています。チャットの場合は即答できるので、利用状況を見ると、若い人たちが多い状況になっています。もう一つは、お客様の自己解決をサポートできる仕組みの構築です。当社のホームページの中に「製品 Q&A」というサイトがありますが、Q&Aの数を増やして、検索した時に自分が知りたいことがすぐ分かるようにしています。

このホームページのQ&Aへのアクセス数は、年間に寄せられる相談件数のおよそ20倍のアクセスがあるという状況になっています。こうした仕掛け作りを通して、若い人たちの声や関心をできるだけ捉えていこうという活動を行っています。デジタル化で若い人たちのメール利用が増えるのかな、と思っていましたが、メールの構成では、確かに若年層は多いのですが、実はトレンドで見るとそんなに比率は変わっていないんですね。コロナ禍で窓口電話を閉鎖せざるをえなかったことから、メールの比率は増えましたけれども、年齢構成はそんなに変わっていません。2022年も昨年のデータに比べて、むしろ減っているぐらいの状況です。そうしたことから、自己解決を手助けする活動として、Q&Aを増やしたり、製品情報を充実させる活動に力を入れています。

NACS NACS担当者

お客さまの声を製品開発や改善、ひいては経営に活かす仕組みについてもお伺いできますか。

生活者の声を集約する花王エコーシステム

生活者の声を集約する「花王エコーシステム」というものがあります。これは、全社員に見てもらえるシステムになっています。

基本的には私たちの相談窓口で相談を受けたものはエコーシステムに入力をし、翌日には全社で見られるという状況になっています。

トップマネージメントにどう上げていくのかというところに関しては、特に品質の課題など緊急性の高いものに関しては、担当部署から直接経営層に上げていきます。さらに、改善に繋がるような提案などは、相談担当部署からマーケティングや製品開発の部署に情報提供するという仕組みになっています。

相談部門では、特に品質に関わる問題については、商品コミュニケーション部が担当していますが、品質向上検討会が月に1回開催され、各事業部ごとに事業部長をはじめ関係する生産部門、研究部門及び品質保証の担当者が一堂に会して、当月の相談状況や課題を共有しています。その中で、品質の課題や新製品の問い合わせなど、さまざまなお客様の声を共有して、「よきモノづくり」に反映しており、花王の一貫した姿勢だと言えます。

お客様対応を担当している私たちとしては、品質課題だけではなくて、いただいたお客様の声を活かして、ESGの視点で生活者の皆様に役に立つ提案をしていきたいと常々考えています。例えば「アタック」では、一年に一回の改良を行っています。以前は、ボトルを継続して使いたいというお客様に対して、「改良をして中身が変更になっています。安心してお使いいただくため、新しいボトルを是非買ってください」といったご案内をしていました。そういった対応の中で、お客様から「ESGを標榜している会社なのに、ボトルがもったいない。なぜそんな改良するのか?」といった声が寄せられたことから、つめかえに際し、安全性等を確認の上、「使い切ってから中身が空の状態でつめかえてください」というつめかえの表示に変え、製品を改良した後も同じ本体が使えるようにしました。これは事業部横断で集まる開発関連の会議で提案し、決定にいたったものです。

品質課題の改善だけではなく、ESGを標榜する会社として自信をもってお客様にもご紹介ができるように、お客様の声を活かす活動を心がけています。

NACS NACS担当者

社会貢献活動の活動方針として「環境」、「教育」、「コミュニティ」を掲げられていますが、消費者教育について、具体的にどのような活動をされているのか教えていただけますか。

花王では、「子供たちに上手な手洗いを楽しく学び、衛生的な習慣を身につけてほしい!」という想いから、2009年より、花王の社員が学校に出向く「手洗い講座」やの出張講座を行ってきました。その後、コロナ禍で学校に伺うのが難しいう状況となったことから、2020年には、先生が自ら取り組んでいただける教材として「新・衛生習慣化プログラム『みんなで手あらい』」を開発し、学校の現場に教材セットを無償配付する活動を行っています。

このプログラムでは、動画の教材スライド、教材印刷用の副教材など、いろいろ自由に組み合わせができるようになっています。先生方がお話しながら授業を展開されたければ、スライドを活用すればよいですし、動画だけ見せて理解を促すことも可能なので、使い勝手がたいへん良くなっています。非常に好評をいただいており、現在、全国2万の小学校に案内を開始して、まずは5,000校に提供しようということで進めているところです。ろう学校向けの教材についても、聴覚障がいを持つ花王グループ社員を中心とした社内コミュニティ「KAKEHASHI(かけはし)」のメンバーの協力によって、2021年9月に「みんなで手あらい ろう学校向け」が誕生しました。盲学校でも使っていただける教材の開発もしており、その開発秘話についても、当社ホームページのこちらのサイトで紹介しています。

NACS NACS担当者

次の世代を担う「子供たちの生きる力を育み、問題解決の力を養う」ための取り組みということですね。最後になりますが、消費者へのメッセージを一言でお願いいたします。

サステナブルな社会を実現するためには、企業だけではなく、生活者の皆さまと共に取り組む必要があります。そのため、生活者視点を重視する姿勢を大切にして、お客さまと一緒に考え、より良い製品開発をしていきたいと考えています。

NACS NACS担当者

本日は、お忙しい中、お時間をいただき、ありがとうございました。

インタビュー後記

今回は、第二回目のリレーインタビューとして花王(株)ご担当者様をお迎えし、企業理念である「花王ウェイ」の考え方やESG戦略についてお話をお聞きしました。

「エビデンスに基づいて」生活者とコミュニケーションするという姿勢は、「花王ウェイ」に謳われた基本となる価値観「正道を歩む」を実践している現れだと思いました。生活と密接に関係する製品を提供している企業として生活者と共に考え、一緒に行動するという活動を地道にされています。
これらは、いずれも私達のような消費者団体にとりましても、非常に示唆に富むお話であり、大変勇気づけられるインタビューとなりました。
(エシカル消費啓発PTメンバー 本多洋治)

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