nacs 公益社団法人 日本消費生活アドバイザーコンサルタント・相談員協会

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資生堂様インタビュー

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今回は、1872年の創業以来、環境と社会、そして人への敬意をもって事業活動を展開してこられた、株式会社資生堂様の汐留オフィスを訪問し、経営革新本部サステナビリティ戦略本部 マネージャー(現:ブランド価値開発研究所 R&Dサステナビリティ&コミュニケーション部 R&Dコミュニケーショングループ グループマネージャー) 南部かおり様、資生堂ジャパン株式会社 マーケティングリレーション本部 コンシューマーセンター コンシューマー情報グループ グループマネージャー 栗谷典子様から、サステナビリティ経営の考え方や、今まさに推進されているサステナビリティ戦略とその活動内容について、お話を伺いました。

NACS NACS担当者

御社は、創業から150年を超えて発展を続けておられます。その長い歴史の中で、取り組まれてこられたサステナビリティを含め、創業以来大切にされているお考えなどについて、お聞かせください。

まず、社名の由来からお話させていただきたいと思います。資生堂の社名は、中国の古典『易経』の一節、「至哉坤元万物資生 “至れる哉(かな)坤元(こんげん)、万物資(と)りて生ず”」(大地の徳はなんと素晴らしいものであろうか。すべてのものは、ここから生まれる)に由来しています。新たなものを生み出し続ける大地への賛歌は、資生堂が目指す、社会に新しい価値を創造し、循環させていくサステナビリティに通じる考え方です。この社名の中に、サステナビリティの精神が宿っていると考えています。その精神に基づいて、原材料の調達から製品の開発、生産から使用、廃棄までのバリューチェーン全体で、ステークホルダーとともにものづくり・サービスを行い、人と自然が共生できる地球環境の実現に挑戦しています。
そして、紹介させていただきたいのは、創業以来のサステナビリティへの取り組みです。1926年に販売しました「懐中コンパクト」は、日本で初のつけかえ商品です。つめかえ・つけかえ商品をいち早く市場に展開してきたことが、ご理解いただけるのではないかと思います。また、1956年には、戦禍によるやけどあとや傷あとで苦しむ方が多く、肌に深い悩みを持つ方の精神的苦痛を和らげるため、日本初の専用化粧品「スポッツカバー」を発売しました。現在も、生まれつきのあざ、やけど、傷あと、病気や治療などによる外見の変化など、肌や見た目に深いお悩みをお持ちの方を、化粧のちからでサポートしています。さらに、1934年には「良家の子女は職業に就かない」という当時の価値観に対して、女性に新しい選択肢を提案し「ミス・シセイドウ」が誕生しました。美容部員の先駆けのような存在で、女性活躍支援をいち早く実践してきた歴史となっています。
創業以来の活動をご紹介させていただきましたが、こうした活動の中にサステナビリティの精神が根付いていると思っています。当社のミッションとして「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」がございます。これからも、私たちの本業である化粧品を通じて「よりよい世界」を作っていこうということで、サステナビリティ戦略を推進しているところです。

18項目のマテリアリティ(重要課題)
NACS NACS担当者

社名の由来などを興味深く聞かせていただきました。また、長い歴史の中で積み上げられてきたものが、社会に新しい価値を創造し、循環させるサステナビリティ経営への取り組みに繋がっているのですね。
それでは、現在、御社が取り組まれているサステナビリティ経営の具体的な戦略や活動内容について、お聞かせいただけますでしょうか。

資生堂のサステナビリティ戦略アクションとして、特に注力しているのが、環境・社会の領域になります。
まず、「環境」からご説明させていただきます。環境の領域に関しましては、「地球環境の負荷軽減」「サステナブルな製品の開発」「サステナブルで責任ある調達の推進」の三つが大きな戦略アクションの柱となっています。
「地球環境の負荷軽減」についてですが、「CO2」「水消費量」「埋め立て廃棄物」の削減の数値目標を掲げ、環境負荷の軽減に取り組んでいます。EVトラックの導入も進めていまして、CO2削減を目指す取り組みの一つとなっています。
「サステナブルな製品の開発」では、容器包装を2025年までに100%サステナブルな容器包装に切り替えることをKPIに掲げています。また、私どもは独自の「資生堂5Rs」いう容器開発ポリシーを掲げておりまして、Reduce、Reuse、Recycle、ReplaceのほかにRespectを加えて5Rsとし、環境への影響を最小限に抑える製品開発に努めています。

NACS NACS担当者

容器包装で独自の製品開発をされていますが、どのような工夫をされているのか、詳しく教えてください。

カラのボトル容器に化粧水を充填するのではなく、特殊な薄いフィルムでできた容器に、化粧水を充填するタイミングで容器を形成する商品があります。化粧水の充填と容器形成を一緒に行うイメージで、カラの容器を工場に運ぶ必要がないため、輸送費やCO2の削減に寄与することになります。
また、この商品は、それだけではなく、使い終わったカラの容器を簡単に外すことができ、つぶして丸めて捨てられるということで、消費者の視点からも使いやすいパッケージになっています。

NACS NACS担当者

環境配慮型商品について教えていただけますか。

2020年に発売した「BAUM」は、テーマを「樹木との共生」とし、製品の90%以上を自然由来の素材から製造しているブランドです。商品のパッケージには、家具の製造工程で発生した小さいオーク(ナラ)をアップサイクルして利用しています。 主なターゲットに30歳代の女性を想定しましたが、購買層の半数以上を20歳代の若年層のお客様が占めており、環境対応への意識が浸透していることを実感しています。
そして、「サステナブルで責任ある調達の推進」については、パーム油を2026年までに100%サステナブルなパーム油にすることをKPIに掲げ、紙につきましても、2023年までに100%サステナブルな紙にすることを同様に推進しています。特に、パーム油については2010年にRSPOに加盟してRSPO認証商品を調達するなど、生物多様性や人種にも配慮した原材料の調達を実行しています。

NACS NACS担当者

原材料調達で、パーム油に関してお話をいただきましたが、「マイカ」(注1)についての調達方針や生産地のサポートなどについてもお話いただけますでしょうか。
(注1) 美しい光反射や耐熱性があることから美容関連産業だけでなく、幅広い産業で使用されている鉱物(雲母)。

資生堂では、2017年にRMI(Responsible Mica Initiative)に加盟しました。RMIは、マイカ生産国の採掘現場から児童労働や強制労働を撲滅し、サステナブルで責任あるマイカ生産の確立を目標に掲げています。RMIは2018年から2022年までの5年間で、NGOやインド政府、参加企業などと連携して、180の村のマイカ生産に従事することで生計を立てている約16,500世帯の家庭、約92,000人に支援を行いました。彼らの収入と生計を改善させ、加えて安全な飲料水や医療施設へのアクセス改善などの活動支援を行っています。資生堂は、今後もRMI加盟企業と連携しながら、社会的懸念のない生産者から供給されるマイカの使用に努めていく計画です。

NACS NACS担当者

最近、御社が「『日焼け止め』の使用について、サンゴの生態系を守る方向に変えていく」という新聞記事を見ました。この取り組みについて聞かせていただけますか。

これまでも、「日焼け止め」を使うと珊瑚の生態系にどのような影響があるのか、という研究・調査を琉球大学と連携して進めてきたのですが、株式会社イノカさんにも加わっていただいて協働で進めているプロジェクトです。イノカさんは、自然の環境を水槽の中で再現する技術をお持ちで、人工的に生態系を作り、どのような影響があるのかを研究・評価されています。「日焼け止め」による珊瑚の生態系への影響は、一社だけでは客観的な評価は出しにくいところがあるので、他企業・大学と連携協働して研究を進めることが重要であると考えています。 株式会社イノカ https://corp.innoqua.jp/

NACS NACS担当者

教育機関や企業と連携し、環境分野への取り組みをされているのですね。
では、「社会」の領域における活動について教えていただけますでしょうか。

「社会」の領域における戦略アクションについては、「ジェンダー平等」「美の力によるエンパワーメント」「人権尊重の推進」の三つの領域に注力して推進しています。
1つ目の「ジェンダー平等」ですが、ジェンダーギャップの解消のためには、女性活躍がメインの課題であると捉えています。「30%クラブジャパン」(注2)に参画し、ジェンダーバランスの改善にも積極的に取り組んでいるところです。こちらでは当社の会長が2期続けてこの組織のチェアマンを務めています。
(注2) 日本企業の役員に占める女性割合の向上を目指して活動する団体

また、女性活躍に関して、地方自治体とも積極的に連携し、女性活躍のためのセミナーを開催するなどして、啓発を含めた支援を行っています。

NACS NACS担当者

女性活躍の支援で、特に地方での取り組みを強化しているのですね。どんな講座を実施していますか。

広島県や山形県など多くの地方自治体と連携して取り組んでいるのですが、当社の社員を講師として行う「女性活躍」や「メイク」の講座を実施しているほか、「女性管理職交流会」という女性管理職が日々抱える悩みなどの意見交換をする取り組みも行っています。家庭とキャリアの両立といったテーマを取り上げて、ワークショップ形式で意見交換するなど、私たち社員も加わって、様々な女性活躍推進に関する課題について考える活動を行っています。

NACS NACS担当者

化粧品の枠を超えて、地域社会の課題も包括的に考えていらっしゃるのですね。

当社の社員も入り、女性活躍をどう推進していけば良いのかを一緒に考えることで、良いサイクルが生まれるのではないかと考えています。
社内的には、保育事業を担う資生堂の子会社、KODOMOLOGY株式会社が運営する保育施設を工場敷地内に設置し、保育事業を通じて、社員の育児サポートを行っています。また、男性の育休サポートにも力を入れて取り組んでいるところです。また、「資生堂DE&I ラボ」(注3)では、社内の組織データを分析し、ダイバーシティの状態が組織にどのような影響を与えるのか、と言ったことを東京大学と協働して、研究を行っており、今後のジェンダー平等の取り組みに活かすことができればと考えております。
(注3) 多様な人財の活躍と企業成長との関係を研究する社内研究機関。

2つ目の戦略アクションは、「美の力によるエンパワーメント」として、「資生堂ライフクオリティー メイクアップ」と呼ばれる、専用商品の開発、一人ひとりにあったトータルメイクの提案などを通して、あざや傷あとなどで悩まれている方の生活の質向上に取り組む活動です。そのほかに、障がい者向けの「ガイドメイク講座」や高齢者のための化粧療法講座なども展開しています。

特に、「LAVENDER RING」は、「すべてのがんサバイバーを笑顔に」をミッションに、資生堂が、株式会社電通の社員有志、特定非営利活動法人キャンサーネットジャパンと運営しています。「MAKEUP & PHOTOS WITH SMILES」は、がんサバイバーの方を対象に、メイクアップレッスン、ヘアメイクアップアーティストによるヘアアドバイスを実施後、フォトグラファーがそのいきいきとした表情や姿を撮影し、ご本人が書き込んだメッセージを含めて1枚のポスターに仕上げる活動です。撮影されたポスターは後日さまざまな場所で展示し、がんになっても自分らしく生きている人たちの姿や声を社会に発信しています。2017年から日本で活動を開始し、2022年からグローバルでも展開しています。2024年は7つの国・地域から、より多くの方々へお届けしていく予定です。

NACS NACS担当者

先程、「美の力によるエンパワーメント」のところで、さまざまな困難を抱える人への支援の取り組みについてお話がありましたが、もう少し詳しくお話しいただけますでしょうか。

医療従事者やがん患者向けに「外見ケアセミナー」を依頼に応じて開催したり、外見変化に対する美容情報をまとめた冊子「外見ケアBOOK」を発刊したりしています。そのほかには、がん関連の病院と連携したセミナーの開催や、webサイトでがん患者さま向けのメイクの仕方についての情報発信も行っています。「自分らしくありたい」という願いを化粧のちからでサポートする、資生堂だからこそできる支援だと考えています。

NACS NACS担当者

地域社会での取り組みやがん患者の方への取り組みなど、資生堂さんだからこそできる取り組みだと感じました。

最後に「人権尊重の推進」ですが、この領域の取り組みも、資生堂のDNAとして受け継がれているものです。すべての事業活動の領域において、ステークホルダーにおける人権尊重の取り組みを推進していますし、社内的には、PEOPLE FIRSTの考えに基づき、多様でプロフェッショナルな人財の育成に努めています。

NACS NACS担当者

「ジェンダー平等」「美の力によるエンパワーメント」「人権尊重の推進」について、社内外、全ての側面において取り組んでいらっしゃるのですね。
また、御社は啓発活動にも積極的に取り組んでいらっしゃいますね。

社員にサステナビリティ経営や推進戦略を理解してもらい、自分事として取り組んでもらうために、社内啓発活動にも積極的に取り組んでいます。森林のゴミを回収するボランティア活動など、「カメリアデー」という活動名称で社員が積極的に行っています。
また、「カメリアファンド」という寄付活動も積極的に行っています。これは社員の自らの意思により、一定額を毎月の給与天引きで寄付をするものです。今までの実績で、「Save the Children」(注4)や「JOICEF」(注5)などに、約3億円を寄付させていただいております。
(注4)子供の教育、医療等の支援活動を行う民間・非営利の国際組織。
(注5)世界の妊産婦と女性の命と健康を守るために活動している日本生まれの国際協力NGO。

その他、マイカップやマイボトルの率先的な使用、社員食堂での食育活動などにも力を入れて取り組んでいるところです。
「Sustainability week」「NO MEAT MONDAY」や、オーガニックな野菜を使用した昼食の提供など、カフェテリアなどでも体験型活動を実施しています。これらが、社員に対するサステナビリティに関する啓発活動となっています。
資生堂は、創業以来、人のしあわせを願い、美の可能性を広げ、新たな価値の発見と創造を行ってきました。これからも、美しく健やかな社会と地球が持続していくことに貢献していくために、「美の力を通じて“人々が幸福を実感できる”サステナブルな社会の実現」を目指し活動を続けてまいります。

インタビュー後記

今回は、株式会社資生堂様の本社を訪問して、サステナビリティに関するさまざまな取り組みについて、お話をお聞きしました。

昨年、ご逝去されました福原義春名誉会長の言葉に、「伝統とは、古いものの上に革新を積み重ねてできたものです。ですから、それを失えば革新ができません。古い伝統と次に生まれる革新を合わせて、部族や企業の文化は幅広い大河の流れのように大きく豊かになるのです」という一節があります。今回資生堂様のお話をお伺いして、まさにこの考え方が“伝統”として息づいていることを感じました。そして、新たな取り組みに挑戦し、革新を積み重ねられていることも、サステナビリティ戦略とその活動の中からうかがい知ることができました。

また、障がい者やがん患者の方々への支援の取り組みをお伺いし、「化粧」は外見だけでなく、人の内面にまで影響を与えていくことを知り、資生堂様だからこそできる取り組みであると感じました。

お忙しい中、インタビューにご協力いただいた南部様、栗谷様に心から御礼申し上げます。ありがとうございました。

(エシカル消費啓発PTメンバー 遠藤友美子)

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